基本的な考え方・方針

アイシンが目指す、「グループ・グローバル連結でチャレンジ推進」「どこよりも人が育ち、全員が活躍」の実現には、従業員をはじめ社内外のステークホルダーとともに、すべての人の人権を尊重していくことが基本となります。また、人権の尊重はあらゆる事業活動の基盤であり、それぞれの国・事業での活動に関係するさまざまな人権課題について理解を深め、適切な行動を取っていくことが私たちに求められていると、強く認識しています。

2021年4月に人権専門委員会で「アイシングループ人権方針」を策定しました。人権尊重の責任を果たしていくことを宣言し、グループ会社やサプライチェーンも含めた各機能の重要規程に織り込んでいます。

なお、人権方針がカバーする人権リスクの範囲には、差別・ハラスメント、児童・若年労働・その他の子どもの権利侵害、移民労働・強制労働、賃金(最低賃金・生活賃金・同一労働への男女賃金差)・労働時間・休日等の基本的労働条件、過重労働、安全・健康な労働環境、従業員との対話、ダイバーシティ&インクルージョン、マイノリティ(女性、LGBTQ、障がい者など)、先住民族・地域住民の権利(土地・森林・水資源など)、警備会社の起用、プライバシー、消費者(製品安全、情報提供)、賄賂・腐敗などを含みます。

また、英国現代奴隷法等に基づき、奴隷労働や人身取引を防止するためのアイシングループの取り組み状況を開示しています。

推進体制

「国連ビジネスと人権に関する指導原則」に沿ってスキームを構築し、経営層によるコミットメントを高めるため、毎年「人権専門委員会」を開催しており、方針・計画を審議・決定して各関係部門が連携して取り組みを推進しています。

体制図

推進体制

戦略

アイシンは、サプライチェーンを含めた人権デュー・ディリジェンスプロセスの定着を目指しています。重大な人権侵害のリスクを低減する取り組みとして、人権リスク特定調査と人権教育の実施を重要な指標として設定しています。人権リスク特定調査は、人権デュー・ディリジェンスの根幹を成すものであり、環境変化や是正状況を察知するため定期的に調査を行って、重点リスクを確認の上で是正措置とその開示を進め、継続的な改善を推進します。また、アイシンの従業員一人ひとりが人権尊重を自らの立場から実践できるよう、人権に関する基本的な理解やアイシンの取り組みなどを共有していきます。

関連するマテリアリティ

マテリアリティ 目標(KGI) 指標(KPI) 2030年度目標値
盤石な経営基盤の構築 重大人権侵害ゼロを
実現できている状態
人権リスク特定調査実施率※1 100%
人権教育実施率※2 100%

人権リスク特定調査実施率 = (人権リスク調査を実施した会社数 / 連結の会社数)×100

人権教育実施率 = (コンプライアンス・人権教育を受けた人数 / 連結の従業員数)×100

主な取り組み

重大人権侵害ゼロに向けた取り組み

人権デュー・ディリジェンス

アイシングループ人権方針を受け、リスクの深刻度(影響度)および潜在可能性(発生頻度)の観点で、社会的関心の度合いや社内状況などを踏まえて重点リスクを設定しています。技能実習をはじめとした外国人労働者(移民労働者)は、強制労働など権利侵害につながる可能性から社会的関心が高く、また、グループ、サプライヤーでの受け入れも多いことから最重点分野としています。また、その他の主要人権分野(差別・ハラスメントなど)についても、各社の取り組み状況を確認しています。

アイシングループの人権取り組みスキーム
(国連指導原則に基づく)

アイシングループの人権取り組みスキーム(国連指導原則に基づく)

主要人権分野に関するアセスメント

主要人権分野(差別・ハラスメント・強制労働・児童労働・労働時間・賃金・従業員との対話・安全健康・サプライヤーへの対応)に対する取り組みについて、実態を把握し改善を進めるため、2024年度はグループ全社および主要サプライヤー226社にセルフチェック調査を実施しています。その結果、昨年度と比べて特に国内では全体的に改善が見られるものの(5点満点評価、2023年度比全体平均+0.2ポイント)、国内での児童労働や強制労働の啓発や実態確認の取り組みに課題が残っています。そこで①全社に人権取組推進者設置・勉強会開催、②人権関連法令の点検リスト展開、③啓発コンテンツの共有・周知などを行っています。今後も調査や現地対話を継続し、改善状況を確認していきます。

外国人労働者に関する取り組み

最重点分野としている外国人労働者に関しては、日本での技能実習(団体監理型)について定期的に調査してきており、2025年3月末時点では、グループ15社で425名を受け入れていることを把握しています。また、技能実習生を受け入れているグループ各社・主要サプライヤーに対してセルフチェックを実施し、実習内容・待遇・書類管理・保護措置などを確認しました。さらに追跡確認として、外国人技能実習機構発行の「外国人技能実習適正実施マニュアル」に沿って実地視察等を行い、人権侵害につながる違反は見られないことを確認しています。また、各監理団体との意見交換を通じた認識の共有や、母国での支払費用(手数料)の状況確認についても進めています。さらに、2024年度からは取り組み範囲を外国人就労者全般に広げ、人権侵害リスクが高まる不法就労の防止の観点から、就労系の在留資格に関する注意喚起や確認を行っています。

教育・定着活動

アイシンでは以下の研修・啓発の機会を設け、毎年度内容を更新しながら、人権尊重を徹底しています。

対象 内容
役員 新任研修に人権関連内容を組み入れ
人権関連部門(人事・調達など) 人権関連の動向や、アイシングループでの方針・取り組みについてグループ各社との勉強会を開催
採用関係者 日本:面接官などに対し留意点などを講義で徹底
同和問題関連 「愛知人権啓発企業連絡会」加盟、「同和問題に取り組む全国企業連絡会」と啓発活動・推進
新入社員・昇格者 日本:人権分野を含むCSR教育を実施
全従業員 日本:取り組みやすいケーススタディでの啓発などを実施 海外:各地域のコンプライアンス研修に人権関連内容を組み入れ
サプライヤー 「アイシングループ仕入先サステナビリティガイドライン」を発行、説明会を通じ賛同を依頼
主要サプライヤー226社と勉強会開催・取り組み共有

その他の取り組み

外部ステークホルダーとの連携

労働組合との対話や、「責任ある外国人労働者受け入れプラットフォーム」(JP-MIRAI)に参加し、企業協働プログラムへの参画など、外部ステークホルダーと連携して取り組みを進めています。

ロゴ:JP-MIRAI Member

相談窓口の設置・強化

社内相談窓口に加え、社外から相談を受け付ける「アイシングローバルホットライン」を設置しています。また、外国人技能実習生などの外国人労働者向けには「JP-MIRAIアシスト」を活用し、多言語・専門的な相談体制を構築しています。

責任ある鉱物調達に対する指針と取り組み

指針

人権や環境などの社会問題への影響を考慮した鉱物調達活動をグローバルで推進するため、各国法規制(米国金融規制改革法、EU紛争鉱物規則など)で問題とされる鉱物の使用回避に向けた取り組みを実施しています。またサプライヤーに私たちの考えをご理解いただくとともに、責任ある鉱物調達活動に取り組んでいただくよう要請しています。

取り組み

2024年度もサプライヤーに協力いただき鉱物の使用状況を調査し、お客様にその結果を回答しました。また、業界団体に参画し、効果的な調査方法の確立などに努めています。今後も指針に基づき、責任ある鉱物調達を進めていきます。

人権取り組み実績・計画まとめ

アイシンとして、国連指導原則に沿って、下表の取り組みを進めてきており、今後も、人権デュー・ディリジェンスのサイクルを通じ、取り組みの対象・内容について段階的な進展を図っていきます。

人権取り組み実績・計画まとめ

アイシンの労使コミュニケーション

アイシンでは、労使関係において大切にすべき考え方として、「人を大切にする」「労使の相互信頼」「車の両輪としての労使(相互協力)」を掲げ、定期的な労使懇談会を開催し、労使双方の方針や課題を共有しながら働きがいのある職場づくりを目指しています。なお、従業員に著しい影響を与えるような施策を実施する場合は、事前に適切な通知期間を設けるなどの対応を行っています。

教訓となったインドにおける労働争議対応

①AHL労働争議の概要

2017年5月、インドにある連結子会社AISIN Automotive Haryana Pvt.Ltd.(AHL)において、同社の従業員による、労働組合設立を求めるストライキが発生しました。1ヵ月後に現地政府によるストライキ禁止令が出されましたが、これに抗議し会社通用門封鎖の実力行使に出た従業員288名の逮捕をもってストライキは収束いたしました。さらにAHLは、ストライキ解除後の幾度もの呼びかけにも応じず無断欠勤を継続した従業員175名を解雇するに至りました。アイシンとしては、争議に関与していない従業員の生命・安全を保護するための、やむを得ない対応であったと考えていますが、労使双方に大きな傷跡を残すアイシングループ史上最大の労働争議となりました。本件により、地域・取引先をはじめとするステークホルダーの皆さまに多大なご心配をおかけいたしましたことをアイシンとして重く受け止めています。

②再発防止策

アイシングループにおける対応

アイシングループでは、過去に幾多の労使間の難局を乗り越えてきた教訓から、「会社の成長には労使双方がお互いの主張に耳を傾け、相互に信頼し、協力関係を築いていくことが必要不可欠」と考えています。しかし、このAHL労働争議を機に、労働慣行の異なる海外であっても「労使が相互に信頼し、協力関係を築いていくことが必要不可欠」であることを再認識・再徹底すべく、上述した労使関係において大切にすべき考え方を取りまとめた『アイシンの労使関係に対するスタンス』を明文化し、全アイシングループ各社へ社長名で通達いたしました。また、アイシングループの一員として、経営理念に基づいて社会的責任を果たしていくための行動規範である企業行動憲章の見直しを図り、「人権の尊重」「多様な働き方の実現」といった観点を今まで以上に強化し、アイシングループ共通の行動指針として徹底しています。さらに、当該スタンスに沿った人事・労務運営が適切に行われているか確認するためのアセスメントツールを開発し、グローバルで順次点検を行っています。仮に点検結果において問題が見つかった場合は、あらかじめ定めたルールに基づき即時改善できる体制を構築しています。

AHLにおける対応

2017年8月4日、社長の伊原(旧アイシン精機当時の社長)がAHLにおいて従業員へ直接、マネジメントとしての反省とともにアイシンの労使スタンスを説明し、新たな再出発を宣言しました。その後は、「労使で意見交換する場の整備」「透明性が高く公正な分かりやすい人事制度構築」「各種イベントの開催」など労使間コミュニケーション体系・施策の再構築を行い、労使間の関係改善を継続して図ってきています。当初40%であった従業員満足度調査における肯定意見率は、2019年1月調査で90%に達しました。100%を目指し、さらなる充実を図ります。

③今後への宣言

AHL労働争議を教訓とし、アイシングループ全社において、このような事態を二度と起こさないという決意を胸に、すべての従業員が誇れる会社を目指します。

労働時間

労働基準法を遵守し、法定労働時間を超える場合には法定の手続きを行い、労働組合とも綿密なコミュニケーションを取って従業員の健康と安全への配慮に努めています。総労働時間の低減に向け、柔軟な働き方の導入や年次有給休暇100%取得を目標に掲げ取り組んでいます。また、海外勤務者の働き方についても見直しの取り組みを進めています。

賃金

アイシンは、各国・地域における最低賃金などの法令遵守はもとより、同一労働・同一賃金の考えを尊重しつつ、労使でも協議しながら、従業員とその家族の一定の生活を保障する水準の担保に努めています。

アイシン(単体)の初任給

初任給
(2025年4月実績)
愛知県
最低賃金
東京都
最低賃金
高校卒 201,000円 115% 106%
大学卒 282,000円 161% 149%
修士卒 301,000円 172% 159%
博士卒 326,800円 187% 173%

最低賃金は2025年4月時点の地域別最低賃金(愛知県(1,077円)、東京都(1,163円))を使用し、月平均20.3日、1日8時間で算出。なお、同一資格等級での男女別・地域別格差はありません。

雇用の安定

人事労務の考え方や制度のグループ標準化が雇用の安定に重要という考えのもと、法令に基づいた施策を推進し、取り組みの結果、2024年度の離職率はグループ4社で2.3%となっています。

2024年4月1日から2025年3月31日までの離職者数(自己都合)÷2024年4月1日時点の従業員数×100

その他人権リスクの防止・軽減

アイシンは、その他の人権リスクに対しても、アイシン人権方針に基づき、国際的に認められている規範を尊重し、また、事業を展開する各国の関連法令の遵守を徹底して、人権リスクの防止・軽減に努めています。具体的には次のような取り組みを、順次進めています。

取り組み例

  • 採用時には公的書類により年齢確認を徹底し、児童労働の発生を防止しています。
  • 派遣社員の受け入れに関する手数料は会社が負担します。
  • 強制労働防止のため、パスポートなどの従業員の重要書類は本人が保管しています。
  • 退職の申し出を行った場合に不利益な取り扱いは行いません。

なお、ハラスメント防止、内部通報制度等についてはコンプライアンスをご参照ください。