トップメッセージ
取締役社長 吉田 守孝
2023年度振り返り
2023年は、2020年から続いたコロナ禍が収束し、半導体の供給は概ね正常化したものの、エネルギーや原材料、人件費の高騰、グローバルでの地政学リスクの高まりなど、引き続き経営の舵取りの難しい状況が続いた1年となりました。
このような環境下、2023年度の売上高は前期から増収となる4兆9,095億円(前期比+5,067億円)となりました。これは、半導体供給回復による日米を中心とした車両生産台数の増加や円安、電動ユニット販売台数の増加によるものです。また営業利益は、品質関連費用の計上があったものの、事業環境改善や企業体質改善により、増益となる1,433億円(前期比+854億円)となっています。
これらの業績を支えているのは、2021年の経営統合当初から進めてきている体質改善や、電動化領域に対する積極投資の結果です。これまでの活動の成果が目に見える形で出始めていることに手応えを感じています。アイシンは、2023年フルモデルチェンジに向けた3カ年計画である「2025年中期経営計画」を策定しました。2024年はホップ・ステップ・ジャンプの“ステップ”の 2年目の時期です。「中身」を変え、「力」をつける活動をますます加速させていきます。
2030年に向けた成長戦略
2030年のめざす姿として、2023年、中長期事業戦略を策定しました。自動車業界では、カーボンニュートラル(CN)やモビリティの電動化、知能化の流れが加速しています。このような流れに対応し社会課題を解決する事業を成長領域と位置づけ、事業ポートフォリオの変革を推進していきます。既存事業のオートマチックトランスミッション(AT)や車体製品などは、体質強化を進め効率よく安定的に稼ぎ、それを成長領域へ投資することで、2030年には5.5兆~6兆円の売上を目指します。
アイシンの強みは、パワートレイン、シャシー、ブレーキ、車体といった幅広い製品群と、素形材から加工、組立まで多様な生産技術、グローバルに展開するものづくり力です。個々の製品を高度化させながら、機能統合、統合制御を図りシステム化することで、バッテリーEV(BEV)車両に対応する高付加価値商材や、従来にないユーザー体験を提供していきます。
BEV化に対しては、蓄積した多様な技術・工法を活かし、駆動ユニットeAxleを中心に、回生協調ブレーキ、熱マネジメント・空力デバイス、電池骨格やギガ・メガキャストなど車両全体で電費向上に資する新製品の開発を進めています。さらに車両統合制御と合わせることで車両全体では18%以上の電費向上と2021年に立てた目標(電費10%向上)を大幅に上回る目処がたってきています。
一方、近年カーボンニュートラル達成の現実解として、ハイブリッド(HEV)車の存在が欧米を中心に見直されつつあるものの、中国ではBEV化の進展が加速するなど、先行き不透明な状況が続いています。このような状況で、アイシンは自動車部品メーカーとして唯一、HEV、PHEV、BEV、FCEV向けに駆動ユニットをフルラインアップで揃えており、フレキシブルに対応できる強みがあります。フルラインアップの強みがさまざまなお客様から評価され、新たな受注や引合いをいただき手応えを感じています。2024年3月にSUBARUと、7月にはBMWと協業していくことに合意しました。
知能化に対しては、移動シーンにおける認知・判断・動作を人に代わりシステムが担う姿を描いています。アイシンが得意とする「走る」「曲がる」「止まる」といったクルマの機能的価値に加え、システムがリアルタイムにユーザーの嗜好を学習し、移動シーンの中でお客様の安心、快適、利便性といった体験価値を高める製品・サービスを開発しています。一例として、ヒトとクルマを周辺監視技術とシステムでつなぎ、誰でも安心して乗り降りできるエントリーシステムの開発を進めています。
今後も自律的にユーザーを支援するシステムの開発を進め「“移動”に感動を、未来に笑顔を。」を実現していきます。
一方、アイシンでは2050年CN達成を目標に掲げており、生産面では、2035年生産CN、2040年ゼロエミ工場達成に向け推進しています。軸となる活動は「動力源・熱源・無駄レス」「クリーンエネルギー」「廃棄物ゼロをめざした資源循環」です。さらにクリーンエネルギー技術の開発にも挑戦しており、ペロブスカイト型太陽電池、CO₂分離・回収・固定化、バイオ成型炭については、2023年に実証実験を開始しました。
アイシンのCNの達成はもちろんのこと、環境や社会をより良いものにする技術開発を促進し、CNに貢献する新規事業も加速させていきます。
足元では、2030年の飛躍に向けて、2023年からは「中身」を変え、「力」をつける“ステップ”の時期として、「2025年中期経営計画」を策定し構造改革を着実に進めています。事業資産圧縮、政策保有株式ゼロ化、在庫の圧縮などのバランスシート改革を進めており、2025年までに総資産の10%にあたる4,000億円のキャッシュを創出し、成長領域に投下します。また、体制面においても成長戦略をさらに加速させるべく、地域・グループ・事業を束ねる経営戦略本部の強化、製品・地域の枠を越え生産を横串で通し確認する生産本部、新車向け事業以外の拡大に向けたバリューチェーン事業センターの新設など、大きな組織変更を行いました。また、リソーセスシフトとリスキリングも2025年までにそれぞれ3,000人規模で実施し、成長領域への人材シフトを加速させます。これらの構造改革をやり切り、2030年の事業ポートフォリオ変革“ジャンプ”に向けた基盤を固めます。
また、取締役会においても、このような構造改革や成長戦略について、議論を交わしています。各取締役の専門的な見地から活発に意見が出され、取締役会がますます活性化してきていると感じています。昨今、事業のみならず、それと連動した人的資本や環境などへの取り組みがますます重要になってきています。これまで以上にサステナビリティの視点からも議論を深め、アイシンのさらなる成長と企業価値向上につなげていくことが必要だと考えています。
人の変化
フルモデルチェンジを進めるために最も大事なのは人です。多様な従業員の挑戦と成長が欠かせません。アイシンでは、2030年に向けた人・組織のめざす姿を「グループ・グローバル連結でチャレンジ推進」「どこよりも人が育ち、全員が活躍」と掲げ、意思を持って「人への投資」を進めています。
「グループ・グローバル連結でチャレンジ推進」に向けては、賃上げだけでなく、成長やチャレンジに報いる人事制度の改定を段階的に進めており、自ら手を上げ挑戦・活躍する人が増えています。特に中堅社員の意識と仕事の進め方が変わってきていると感じます。挑戦する風土に加え、経営統合により多様な人が交わった結果、「チョイソコ」「YYSystem」など、今までにない新しい領域に事業が広がっています。また、これらの新規事業が評価され、「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)2024」に初めて選定されました。
「どこよりも人が育ち、全員が活躍」に向けては、女性活躍のさらなる推進、経験値のあるベテラン社員の戦力化、海外現地人材の育成と重要ポジションへの配置などを進めています。こうした取り組みが評価され、女性が活躍する企業として「なでしこ銘柄」に4年連続選定されました。また、今後の海外生産増加を見据え、グローバル事業をけん引する海外人材の最適配置も進めています。現在、欧州の5つの法人では現地人材が経営トップを務めており、現地に裁量を与えお客様のニーズにクイックに対応することで、海外営業力の強化にもつながっています。
こうした挑戦や全員活躍を後押しするためには、風通しのいい職場風土の醸成が重要です。また昨今、品質不正が取り沙汰されていますが、こうした問題をなくすためには、困りごとをホンネで言える風通しのいい職場風土が重要です。2024年1月にトヨタグループビジョンが発表されました。心構えとしての「主権を現場に戻す」はアイシンの風土改革活動に通じるものです。私は、挑戦を後押しする風通しのいい職場と困りごとをホンネで言える風通しのいい職場、この2つは本質的には同じだと考えています。この2年間進めてきた職場風土改革をこれからも続けていきます。全員が元気に挑戦し、人が育つ会社になることが、アイシンの飛躍につながると信じています。
“移動”に感動を、未来に笑顔を。
アイシンは移動を支える多くの製品やサービスを揃えており、自動車会社に近く、クルマづくりをよく知る部品メーカーです。モビリティは変わっても、アイシンのめざす「“移動”に感動を、未来に笑顔を。」を実現する役割は変わりません。
一方で、自動車業界を取り巻く環境は変化が速く、アイシンのめざす役割を実現するためには、変化に応じたフレキシビリティが大切だと実感しています。2024年はSPEED&AGILEをスローガンに掲げ、経営の舵取りを進めていきます。グローバルでの市場動向を見極め、慎重かつスピーディーに投資判断を行い、変化に柔軟に対応していきます。
さらなる成長に向けて、お客様やサプライヤー、投資家などステークホルダーの皆さまとの対話も深めています。さまざまな声に耳を傾け、アイシンの企業価値向上に努めていきます。今後もアイシンの成長に、ぜひご期待ください。