TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)提言に基づく情報開示

TNFD提言への賛同と情報開示

アイシンは、2023年9月にTNFD提言に賛同を表明し、提言に基づいた情報開示をしています。

アイシングループ生物多様性ガイドライン

2017年度に制定した「アイシングループ生物多様性ガイドライン」に基づき、環境異常の未然防止に加え、生物多様性に配慮した活動にグループ一丸となって取り組んでいます。

序章

アイシングループ生物多様性ガイドラインの考え方

第1章

生物多様性の啓発に向け、広報・教育・普及活動の実施

第2章

持続可能な生産と消費に向けた活動の実施

第3章

生息地破壊の抑止

第4章

排水・ばい煙・廃棄物内の化学物質等による汚染の防止

第5章

外来種の定着防止

第6章

保護地域の保全

第7章

絶滅危惧種の絶滅防止に向けた活動

第8章

生態系サービスの持続可能な利用に向けた活動

第9章

二酸化炭素の削減・貯蔵による生態系の保護

【ポイント】アイシングループは拠点建設・製品開発・調達・生産・使用・廃棄に至るまで生物多様性に配慮した活動を推進する

アライアンスへの参画、イニシアチブへの賛同

環境省の30by30アライアンスへの参画、経団連生物多様性イニシアチブへ賛同をしています。

ロゴ

ガバナンス

当社は、「サステナビリティ会議」にて中長期視点でのサステナビリティ課題の共有や方針・KPIの設定を行っています。その上位方針・KPIに基づき、環境基盤の構築、脱炭素、資源循環、自然共生に関する戦略の検討・推進・審議・モニタリングを目的として、「環境委員会」および「CN・CE推進会議」を定期的に開催することで、スピーディで柔軟な意思決定を行っています。
また、サステナビリティ会議を通じて付議・報告される気候関連重要事項は取締役会で審議を行い、必要に応じて事業戦略・計画を修正することで経営戦略の最適化を図っています。

体制
会議体名 役割 主な出席者
環境委員会 上位方針を踏まえた環境全般の基本方針の審議・展開 環境関連の業務執行の適正化とリスク最小化に向けたモニタリング グループ13社 社長
環境担当役員
CN・CE推進会議 脱炭素・資源循環・自然共生に対する戦略検討・推進 グループ13社 環境担当役員

戦略およびリスクとインパクトの管理

事業活動の場所に注目したLEAPアプローチ

事業活動を行う「地域」や「場所」によって、生物資源や水資源などの自然資本に対して与える影響に差異があるため、ローカルな視点で取り組みが必要であることを理解し、TNFDの開示フレームワークで示されたLEAPアプローチを用い、統合的な開示を進めています。

バリューチェーン上下流の検討対象の考え方

上流 直接操業 下流
加⼯(サプライヤー)※1 ⾃動⾞部品製造 ⾃動⾞製造(顧客)※2

eAxle・ロッカーEA材用のアルミ素材部品

eAxle・ロッカーEA材を納めている顧客における自動車の製造

LEAPアプローチの検討フロー

2024年度は新たにバリューチェーン上下流の評価を行いました。今後、自動車業界において電動化への対応が進むことを背景に、まずは代表製品としてeAxleとロッカーEA材を選定した上で、代表製品の主要原材料であり、環境負荷が大きいと想定されるアルミを代表原材料に選定。さらにバリューチェーン上下流を対象とした評価方法の確立を目的に、正確な場所の情報が収集できているバリューチェーン上流:1次サプライヤー、バリューチェーン下流:自動車製造業を評価範囲として設定し、分析を行いました。

Locate
自然との接点の発見
Evaluate
依存・インパクトの評価
Assess
重要なリスクと機会の評価
Prepare
対応と報告の準備
検討対象 直接操業 上流:1次サプライヤー 下流:自動車製造業 同左 同左 直接操業
検討内容 活動場所の評価 優先地域の特定 依存・インパクトの評価 妥当性の確認 優先度の高い依存項目、インパクト項目の抽出 リスクと機会のリスト作成 シナリオ分析に基づくリスクと機会の定性的な重要度評価 リスク管理アプローチの整理 戦略とリソースの割り当て パフォーマンス測定 情報開示の作成
アウトプット ①活動場所の評価結果 ②優先地域の特定結果 ①依存・インパクトの評価結果 優先度の高い依存項目、インパクト項目リスト ①リスクと機会のリスト ②リスクと機会の定性的な重要度評価 ③シナリオ分析に基づく重要なリスクと機会のリスト リスク管理戦略と軽減策

③④は直接操業のみ実施

TNFD提言の開示推奨項目を照合した情報開示

Locate:自然との接点の発見

事業は活動場所で自然とつながっており、直面するリスクを特定、評価、回避、緩和、管理する上で活動場所の評価が重要です。Locateフェーズでは、生態系の完全性、生物多様性の重要性、水ストレス等の観点から、組織の活動場所の評価を行い、優先地域を特定します。

優先地域の選定方針

優先地域の選定方針

優先地域の選出結果

優先地域の選出結果

Evaluate:依存・インパクトの評価

事業活動の場所における依存・インパクトは、リスクと機会を理解する上での重要な前提条件となります。Evaluateフェーズでは、Locateフェーズで特定した優先地域において、事業活動と自然との依存・インパクトを特定し、分析します。組織が機能するために依存している生態系サービスの側面、組織の行動によって自然の変化をもたらすインパクト要因の側面について、それぞれENCOREを用いて評価を実施しました。依存については、「供給サービス」「調整・維持サービス」「文化的サービス」の3つが挙げられます。また、インパクト要因については「陸、淡水、海洋の利用変化」「資源の利用/補完」「気候変動」「汚染/汚染除去」「侵略的外来種の侵入/除去」の5つが挙げられます。これらのインパクト要因は、Science-Based Targets for NatureのTechnical Guidance for Step1 and Step2においても同様に定義されています。

ENCOREのアップデートへの対応(依存・インパクトの評価方針)

2024年7月のENCORE大幅アップデートを踏まえ、2024年度のバリューチェーン上下流の評価においてはアップデート版を採用しました。なお、既に開示済の直接操業の評価結果は、実態と照らし合わせて精査したものであり、現段階では実態と大きな乖離はないと判断しています。

セクターレベルの依存・インパクトの関係

セクターレベルの依存・インパクトの関係

Assess:重要なリスクと機会の評価

LocateとEvaluateフェーズにおける検討結果を踏まえ、既に開示している直接操業に加えて、今年度はバリューチェーン上下流段階におけるリスクと機会の重要度評価を行いました。

リスクと機会の時間軸

直接操業およびバリューチェーン上下流の活動に起因する自然関連リスクおよび機会の時間軸を以下の通り設定しています。

時間軸 期間
長期 ~2050年度
中期 ~2030年度
短期 ~2025年度

また、自然関連リスクおよび機会の各分類に対して、時間軸をそれぞれ以下の通り設定しています。

リスク分類(大) リスク分類(小) 時間軸
物理的リスク 急性 短期
慢性 長期
移行リスク 政策 中期
市場 中期
技術 長期
評判 中期
責任 短期
機会分類(大) 機会分類(小) 時間軸
ビジネスパフォーマンス関連 市場 中期
資本フローと資金調達 中期
製品とサービス 中期
資源効率 中期
評判資本 中期
サステナビリティパフォーマンス関連 自然資源の持続可能な利用 長期
生態系の保護、復元、再生 長期

リスクと機会の重要度評価

直接操業およびバリューチェーン上下流の活動に起因する自然関連リスクおよび機会の発生可能性と財務影響を以下の通り設定しています。

発生可能性 対応する時間軸
長期時間軸
中期時間軸
短期時間軸
財務影響 影響規模
100億円以上
10億円以上100億円未満
10億円未満

【直接操業】シナリオ分析の考え方

2つの重要な不確実性である「生態系サービスの低下(物理的リスクとの関連性が強い)」および「市場と非市場の原動力の一致(移行リスクとの関連性が強い)」の組み合わせから、4つのシナリオの世界観をPEST+E分析のフレームを用いて想定した上で、重要度の移行状況を評価しました。

【直接操業】4つのシナリオの世界観設定

シナリオⅠ:規制が一部不十分で生態系サービスの劣化も進んでいるシナリオ

シナリオⅡ:規制強化などにより生態系サービスの劣化が抑制されているシナリオ

シナリオⅢ:環境負荷の大きい製品を優先するために生態系サービスの劣化が進むシナリオ

シナリオⅣ:規制強化などは少ないが生態系サービスの劣化は進まないシナリオ

各シナリオのPEST+E 分析結果

各シナリオのPEST+E 分析結果

【直接操業】シナリオ分析に基づくリスクの重要度評価結果

【直接操業】シナリオ分析に基づくリスクの重要度評価結果

【直接操業】シナリオ分析に基づく機会の重要度評価結果

【直接操業】シナリオ分析に基づく機会の重要度評価結果

【バリューチェーン上下流】自然関連リスクの重要度評価

バリューチェーンにおける自然関連リスクを評価する上で「定義」、「発生条件」を設定しました。「定義」はバリューチェーン上下流の組織や社会の自然への依存・インパクトに関連して、自組織にもたらされる潜在的な脅威とし、大きく物理的リスク・移行リスクの2つに分類しました。「発生条件」はバリューチェーン上下流で行われる活動が自然(生態系サービス)に依存している、あるいは、自然に対してインパクトを及ぼしていることとしました。重要度評価は「発生可能性」と「影響の大きさ」の2軸で評価し、各リスクの優先度を検討しました。

【バリューチェーン上下流】リスクの重要度評価結果(抜粋)

【バリューチェーン上下流】リスクの重要度評価結果(抜粋)

【バリューチェーン上下流】自然関連機会の重要度評価

バリューチェーンにおける自然関連の機会を評価する上で「定義」、「発生経路」を設定しました。「定義」はバリューチェーン上下流において自然にプラスの影響を与えるか(再生)、自然へのマイナスの影響を軽減すること(回避・低減)により、自組織と自然にプラスの結果をもたらす自組織の活動としました。「発生条件」は①生態系サービスの劣化に伴う自然関連のリスクをバリューチェーン上下流の組織および自組織が回避、軽減、緩和、または管理する場合、②自組織におけるビジネスモデル、製品、サービス、市場、投資の戦略的変革を通じて、バリューチェーン上下流の活動に伴う自然の喪失の抑制や、自然に基づく解決策の実施または融資や保険による支援などを行う場合としました。重要度評価は「発生可能性」と「影響の大きさ」の2軸で評価し、各機会の優先度を検討しました。

【バリューチェーン上下流】機会の重要度評価結果(抜粋)

【バリューチェーン上下流】機会の重要度評価結果(抜粋)

Prepare:対応と報告の準備

測定指標とターゲット

2024年度はこれまでに実施した直接操業に加え、バリューチェーン上下流を対象としたリスクと機会の評価を行うことで、事業活動全体における自然との関わりを考慮して、現実的に取り組むべきことを認識できました。アイシンはこれからも優先課題として掲げている「自然との共生、持続可能な未来への貢献」の達成に向け、目標と指標を設定し、自然共生活動に取り組んでいきます。

2030年目標値 管理指標 取り組み事例
自然と共生する工場:10拠点以上
  • 水使用量
  • 排水の水質および水量
下記活動事例およびパフォーマンスデータ参照
  • 河川・海岸清掃
  • 植樹本数
  • 生息環境の維持・改善
  • 希少種保護活動
  • 外来種駆除活動
  • 地域ステークホルダーとのコミュニケーション
下記活動事例参照

水使用量削減活動事例

アイシンの事業活動は多くの自然資本に支えられており、環境負荷の低減が不可欠です。アイシンでは「水削減6則」を定め、水使用量の削減に取り組んでいます。特に「トメル」「サゲル」「カエル」「ヒロウ」を重点に、非稼働停止の徹底、水圧・流量の低減、水以外の工法への変更、排水のリサイクル、雨水・ドレン水利用等を実施しています。「カエル」の視点では、西尾ダイカスト工場では高温の金型に離型剤を塗布する際に、冷却用に水を使用しておりましたが、3D冷却金型化により効率的に金型を内部から冷やすことが可能となり、水の使用そのものを廃止することができました。また、ミスト上になった離型剤を回収・処理するため、従来は水を使用しておりましたが、特別なフィルターを使って処理することで、水を使用せずに回収できるようにしました。このような各工場の改善事例の展開を推進し、水使用量の削減に取り組んでいます。

自然共生活動事例

アイシンでは「水域保全」「地域ステークホルダーと連携した活動」「生態系ネットワーク構築への貢献」の3つを柱とした自然共生活動を推進しています。2024年度は、多くの拠点で実施されている工場周辺の清掃活動に加え、植林・植樹、希少種の保護・外来種の駆除、河川・海岸清掃など、グローバルに自然共生活動を展開しました。また、2030年度までに80万本の植樹を目指す「GREEN&BLUEプロジェクト」では、2024年度までに累計359,000本の植樹を達成しました。
上記の3つの柱すべてを満たす拠点を「アイシングループの自然と共生する工場」と定義しており、2024年度は新たに1拠点を認定し、累計で5拠点となりました。2030年度までに累計10拠点の認定を目指しています。さらに、アイシンで働くすべての従業員がネイチャーポジティブについて学び、事業活動との関わりを理解する場として、経営層を含む従業員への教育を開始しています。

グローバルにおける自然共生活動の実施状況

グローバルにおける自然共生活動の実施状況

円の大きさは活動件数