ガバナンス
リスクマネジメント
基本的な考え方・方針
アイシンのリスクマネジメントは、事業活動とともに企業経営の車の両輪であると考えています。さまざまな経営戦略を実行していく中で、外部環境の急激な変化により、経営に影響を与えるリスクが増加しています。そのような成長を阻害する可能性のあるリスクを把握し、コントロールすることと事業継続力強化の両面で取り組んでいきます。
企業がその目的を達成しようとする活動に対して、重大な影響を及ぼすさまざまなリスクを発生抑制・被害軽減していきます。万が一発生した場合は、経営への影響を最小化し、企業の持続性を保証することで、ステークホルダーの皆様からの期待に応えていきます。
推進体制
リスクマネジメント推進体制として、上位会議体のサステナビリティ会議での方針展開を受け、社長をはじめCxO、監査役及び主要グループ会社の社長などが参加するリスクマネジメント委員会を設置しています。委員会においてアイシンにおけるリスク発生状況及び外部の環境・動向を踏まえ、取り組むべき重点リスクの審議・方向づけを行うことでリスク対策を推進しています。決定した重点リスクについて、グループ本社では、リスク別に主管部署を設定し、国内外のグループ会社それぞれにリスクマネジメント推進責任者を置き、グループ全体で取り組むことでリスクに対する対応力を強化しています。
さらに、定期的な取締役会への報告を通して、リスクマネジメントに関する監督を受けるとともに、経営戦略の高度化に役立てています。
リスクマネジメント体制
戦略
リスクマネジメントの高度化
アイシンは、1997年の刈谷工場火災において、皆様にご迷惑とご心配をおかけしました。これを機に、同じ失敗を繰り返さないようERM※を導入し、全社的なリスクマネジメントに取り組んできました。近年、大規模地震や線状降水帯の頻発などの自然災害、部品供給問題、地政学・経済安全保障リスクなど経営を取り巻くリスクは複雑化・多様化しています。
このような中、持続的成長と安定を目指し、経営戦略に関するリスクを含めたリスクマネジメントプロセスを導入しています。事業の円滑な運営を阻害する「オペレーショナルリスク」と、中長期的な経営戦略の遂行を阻害する「経営戦略リスク」の両面から、リスクの予兆を捉え、影響度を適切に分析・評価し「先手を打つ」リスクマネジメントを実践していきます。
ERM:Enterprise Risk Management
主な取り組み
基本的な取り組み
アイシンでは「リスクマネジメントプロセス」に基づき、平時におけるリスクの発生抑制・被害軽減、有事の際の早期復旧・被害最小化に取り組んでいます。また、リスク発生の兆候をいち早く察知し、リスクを回避するために予兆管理を2025年度よりリスクマネジメントの枠組みに組み込みました。さらに、これらの対策の有効性評価、改善及び標準化を行い、リスクマネジメントサイクルを回すことでリスクに対する実効性を高めています。
リスクマネジメントプロセス ~PDCAサイクル~
平時の対応
重点リスクの決定
アイシンでは年2回、リスクマネジメント委員会で重点リスクを決定しています。重点リスクの決定に際しては、毎年、当社グループ経営方針策定時に、経営会議、取締役会で確認される「機会とリスク」を受けて、リスクアセスメントにおいて、外部リスク環境の動向、顧客期待値やステークホルダーを含む社会的要請、外部専門機関によるリスク予測などをもとに、外部環境の変化に伴うリスクを洗い出しています。これに加え、各リスク主管部署の専門的な視点、グループ会社の業務特性に基づく視点、海外拠点の地理的な視点から、内部環境の変化に伴うリスクを洗い出しています。
これらのリスクを、発生確率や傾向、影響度を軸に分析・評価し、これまでのリスク対策による発生抑制・被害軽減の効果を勘案したうえで、グループ全体で重点的に対策すべき「重点リスク」を決定しています。
2026年度 アイシングループ重点リスク
リスク対策、モニタリング
リスクマネジメント委員会で決定された「最重点リスク」「重点リスク」は、各種委員会、各リスクの主管部署が発生抑制・被害軽減の対策を実行しています。「最重点リスク」は、リスクマネジメント委員会によって、「重点リスク」は、ERM室によってモニタリングし、継続的な改善に向けて取り組んでいます。
予兆管理
会社運営に悪影響を及ぼす可能性のあるリスク発生の兆候をいち早く察知し、リスクを回避するために予兆管理を行っています。リスクに対する閾値の設定と閾値超過時の「対応(部署・内容)」をあらかじめ手順化しています。
有事の対応
緊急事態対応
緊急事態が発生した際の初動対応では、「リスクレポート」を起点に、社長をはじめとする全役員及び各リスクの主管部署へ迅速にリスクの発生を伝達します。そのうえで、危機レベルに応じた対策本部(1号~3号)を立ち上げます。対策本部長については、1号事案ではリスクマネジメント委員長がリスク事案に応じて任命し、2号事案では原則として当該リスクの主管部署の本部長が、3号事案ではリスク主管部署の部長が担います。また、対策本部の事務局は、1号対策本部では各リスクの主管部署及びリスクマネジメント推進部署であるERM室が、2号・3号対策本部では各リスクの主管部署が対応にあたります。
こうした体制のもと、災害等の緊急事態対応にあたっては、基本方針として「①人命・安全、②地域貢献、③生産復旧」の優先順位を掲げ、行動指針を「早め・多め」と定めています。これらの考え方に基づき、緊急事態対応計画(BCP)を策定しています。
災害等が発生した際は、まず人命と安全の確保を最優先に行い、被害の最小化をはかります。
次に、「地域復旧なくしてアイシンの生産復旧なし」の考え方のもと、地域貢献に注力します。具体的には被災した地域の行政と連携し、不足している物資や救援物資の提供、被災地域の仕入先への物資支援等を実施しています。
生産復旧対応では、被害状況に応じて、あらかじめ決定した重要業務から優先的に復旧を行います。さらに、被害が深刻な場合は、代替業務や代替生産にシフトし、事業を継続していきます。
これらの緊急事態に備え、各リスクの主管部署では、計画的にリスク抑制・軽減策を実施するとともに、有事の行動計画に沿った教育・訓練を実施しています。特に大きな被害が想定される大規模地震では、発生時の初動が被害最小化の鍵を握るため、トップを対策本部長とする「災害対策本部初動訓練」を定期的に実施しています。また、BCPの策定及び訓練により実効性を向上させるとともに、有事に強い人材を育成し、平時から危機に強い組織・職場・人づくりを目指しています。
なお、2026年7月28日に発生した熊本地震では、当社グループ会社のアイシン九州において、2016年の震度6弱を上回る震度6強を観測しました。上記基本方針のもと、まず従業員の安全確保と被害状況の把握を最優先に対応し、続いて地域社会の復旧・復興支援に取り組むとともに、生産活動の早期復旧を進め、8月2日に一部生産を再開、8月5日には通常稼働を再開しました。2016年の熊本地震では通常稼働再開まで22日間を要したのに対し、今回は8日後に通常稼働を再開しており、2016年の熊本地震で得た知見を踏まえた対策により、被害を限定的に抑え、早期復旧を実現することができました。今後、今回の対応を振り返り、地震対策のさらなる改善をはかっていきます。
教育・啓蒙
全従業員のリスクマネジメント力向上を目的に、教育・啓蒙に取り組んでいます。リスク対策の平時対応(抑止策・軽減策)と有事発生時の実践要領を制定した「危機管理(リスクマネジメント)ガイド」を発行しています。また、役員を含む管理職に対しては、「階層別リスクマネジメント研修」を開催し、全従業員に向けては「アイシングループリスクマネジメント報」を発行することで、従業員一人ひとりがリスクを自分ごととして捉え、対策が徹底されるよう教育・啓蒙しています。
さらに、アイシンでは、過去の大規模地震による甚大な被害を二度と繰り返さないよう、「アイシン伝承館」に「熊本地震学習ゾーン」を設置しています。2016年の熊本地震での被災・復旧で得た学び・気づきをパネルと映像で発信し、自然災害への備えと心構えを伝承しています。これらの取り組みの成果として、2024年1月の能登半島地震においては、吊物対策や対策本部設置訓練など、過去の教訓を踏まえた施策が功を奏し、被害の低減に寄与しました。
一方で、大阪北部地震や北海道胆振東部地震、能登半島地震でのグループ会社における震災対応を通じて、得られた教訓についてもグループ全体へより確実に浸透・定着させていく重要性を再認識しました。また、震災対応では、過去に被災現場に駆けつけ第一線で対応にあたった経験者の知見が大きな役割を果たしてきました。熊本地震から10年という節目を迎え、経験者の定年退職等も見据えながら、これらの知見や教訓を組織として確実に継承していく重要性が一層高まっています。
これらの課題を踏まえ、熊本地震以降の各震災で得られた新たな失敗と教訓に加え、それらを標準化のうえ、規程・ガイドに織り込んだ「震災からの学び・気づき」へ刷新しました。今後も継続的な更新を行いながら、アイシンの「震災からの学び・気づき」を持続的に伝承し、グループ全体の減災と事業継続力の向上に貢献していきます。
重点リスクへの取り組みと対応組織
2026年度の重点リスクへの取り組みについては、各対応組織が対策を推進しており、詳細は下記「重点リスクと対応組織」の「取り組み掲載先」をご参照ください。
なお、これらのリスクに関して定期的に取締役会へ付議・報告をし、経営戦略の高度化に役立てています。
重点リスクと対応組織
| リスク項目 | 取り組み掲載先 | 対応組織 | |
|---|---|---|---|
| 前提リスク
(自社でコントロール不可)
外部環境の変化発生時に 経営戦略・業務の前提が 変動するリスク |
地政学・安全保障・軍事緊張 | - | 経営会議、執行会議にて審議 |
| 関税・通商 | |||
| 製造・材料費高騰 | |||
| 金融危機・インフレ | |||
| 為替・金利変動 | |||
| 労働人口減 | |||
| 市場ニーズ変化 (BEV化・技術革新) |
|||
| 経済状況 | |||
| 得意先減産 | |||
| 最重点リスク | 市場環境の変化 | リスクマネジメント |
経営会議、戦略機能会議、執行会議にて 審議 専門組織による推進 (総合企画部、事業戦略部、 原価機能統括部、収益企画部、 カーボンニュートラル・環境推進センター、 経済安全保障室) |
| 経済安全保障 | |||
| 気候変動対応 (CN・CE) |
環境 | ||
| サイバー攻撃 | 情報セキュリティ |
専門組織による推進 (情報セキュリティ推進部) |
|
| 情報漏洩 | |||
| 環境問題 | 環境 |
各種委員会にて推進 (企業行動倫理委員会、人権専門委員会、 経済安全保障委員会、安全衛生委員会、 環境委員会、CN・CE推進会議、 品質機能会議、法規認証委員会など) |
|
| 品質問題 | 品質 | ||
| 労働災害 | 安全衛生 | ||
| 火災・爆発 | |||
| 人権問題 | 人権 | ||
| 輸出管理 | リスクマネジメント | ||
| 部品認証違反 | 品質 | ||
| 大規模地震 | リスクマネジメント |
リスクマネジメント委員会下部組織 (災害対応・納入継続部会) |
|
| 風水害・雪害等 | |||
| 生産停止 (災害・火災・事故) |
|||
| 仕入先停止・供給逼迫 | サプライチェーン | ||
| 重点リスク | 独禁法違反 | コンプライアンス | リスク主管部署で対応 |
| ハラスメント | コンプライアンス | ||
| 人権 | |||
| インフラ供給停止 (電気・ガス・水) |
リスクマネジメント | ||
| 物流障害 | |||
| テロ・政変・暴動 | |||
| 竜巻 | |||
| 取引適正化 | サプライチェーン | ||
| 知財紛争 | 知的財産 |
市場環境の変化
アイシンでは、自動車業界が電動化・知能化を中心に大きな変革期を迎えているとの認識のもと、事業ポートフォリオの変革を一層加速させています。具体的には、電動化・知能化を成長領域と位置づけ、ヒト・モノ・カネのリソーセスシフト/リスキルを行うとともに、地域や顧客ごとの多様なニーズに柔軟に対応できる事業体制の構築に取り組んでいます。また、アイシンの中長期の方向性及びグループを含めた意思決定については、取締役会運用基準に則り、取締役会にて審議・決議するとともに経営会議、執行会議、各種機能会議等で、アイシングループ各社の業績や重要な投資に対してのモニタリングを実施し、今後の方向性や業績改善のための対策を検討しています。
経済安全保障、輸出管理
アイシンが事業を展開している国または地域においては、事業運営に不利な影響を及ぼす法律・規制の改正や租税制度の変更、不利な政治的・経済的な要因の発生、テロ、戦争、疾病その他の要因による社会的または経済的な混乱などのリスクが内在しています。
国内グループ会社に加え、北中南米、欧州、中国、アセアン、インドを統括する各地域本部長が、グループに共通する経営上のリスクと国や地域によって異なるリスクの情報を共有することによって効果的な対策を推進し、グローバルな視点でリスクマネジメントを強化しています。具体的にはグループ経営戦略本部が中心となり、地域ごとの事業課題認識と上記リスクを踏まえた事業戦略・地域戦略を一元的に策定しています。また、アイシンが事業展開する国または地域だけでなく、事業に関連する各国の情報をタイムリーに収集し、適時適切な対応を取っています。
近年、関税や輸出入規制を含む貿易政策の急激な変更や、軍事的な緊張の高まりなどにより、不確実性が高く予見が困難な地政学・経済安全保障リスクが増加しています。これらに関連する政策、法規制の動向などをタイムリーに収集し、発生したリスクに必要な対応を行うことに加えて、全社横断的な会議体である「経済安全保障委員会」にて、経済安全保障上のリスク軽減に向けた活動(安全保障貿易管理、機微技術管理を含む)の検討・実施を行う体制を構築しています。
大規模地震、風水害・雪害等、竜巻
甚大な被害が想定される自然災害に対しては、「危機管理(リスクマネジメント)ガイド」や過去の被災経験を標準化したガイド「震災からの学び・気づき」に基づき、実際の災害経験より、グループ⼀体となってリスクの未然防⽌及び被害最小化を推進しています。例えば2016年の熊本地震の教訓を活かした建屋耐震や吊物の落下対策などをグループ全体で取り組んだことにより、2024年1⽉に発生した能登半島地震において、吊物の落下物はほとんどなく、生産復旧までの時間を最小化し、納入への影響を回避しました。
⼀方、能登半島地震で深刻な被害を受けた液状化については、新たな課題と捉えグループで液状化リスクのある拠点に対し適切な対策を定め実施しています。
また、昨今の線状降水帯による想定を超えた降⾬被害、土砂災害についても、アイシングループ全体でリスク低減に向けて取り組んでいます。
テロ・政変・暴動
近年、各地での紛争やテロ事件など、世界規模で治安リスクが高まっています。
アイシンでは、出向・出張での海外派遣者向けに、海外リスクコンサルタント作成の動画などで教育を行い、警戒意識を高め、リスクの未然防止をはかっています。また、専門家にも相談しながら、平時・有事の対応手順書を策定するとともに、グループ関係者でシミュレーション訓練を行って、連絡体制や初動対応事項の確認などを行っています。さらに、治安悪化に伴う退避に備えて国外退避マニュアルを策定し、危機段階ごとの対応事項や社内認識の整理を進めるとともに、軍事衝突・紛争発生時には渡航禁止措置や出向者・帯同家族の本国退避等を適時実施し、人的被害の回避をはかっています。
インフラ供給停止
2018年に発生した北海道胆振東部地震では、アイシン北海道で2日間以上の停電があり、アルミ保持炉の固着など、重大な設備故障の危機を経験しました。その対応として仮設非常電源を全国から手配し、故障を回避しました。この経験より、電力供給会社のトラブルによる供給停止を回避するため、停電時に故障リスクのある設備が必要とする非常電源確保を進めてきており、大規模停電が発生した場合でも、3日間は非常電源で供給が続けられるガイドラインをグループ共通で策定し、すべての対応を完了しました。
また昨今、雷の発生が多発しており、グループ拠点でも工場全体の受変電設備への落雷事故が発生したため、グループ全体で落雷による供給停止リスクがある拠点に対し、変圧器の増設対応を計画的に推進しています。
さらに、本年に発生した愛知県の豊川用水の渇水リスクに対しては、豊川水系にある3つの拠点で行政からの節水要請に合わせた節水対応を行い、生産への影響を最小化しました。この経験を活かし、今後、国内各所で発生する水不足を想定した対応のマニュアル化を進めています。
物流障害
国内においては、慢性的なドライバー不足に対して、2026年4月より物流関連二法(物流効率化法、貨物自動車運送事業法)が施行され、荷主の主体的な活動・取り組みが求められています。
サプライヤー・輸送業者へ寄り添い、ルートの最適化による運行時間の短縮、出荷・受入場の環境整備及び作業効率化による荷役時間短縮をはかることで、トラック乗務員の労働時間を短縮してきました。将来に向け、グループ共同輸送拡大、荷役作業の内製化や自動化によるさらなる負荷低減に取り組んでいきます。
また、気象情報から雪害などのリスクの予兆をつかみ、トラック便の早出しや代替輸送ルートを事前に検討することで、物流障害リスクの発生確率と影響度を継続的に低減させていきます。
海外向けの海上輸送においては、昨今の地政学リスクの高まりにより世界的な物流の混乱が発生する可能性があります。その結果、計画していた船便のキャンセルや運行スケジュールの遅延リスクが懸念されています。アイシンでは、遅延による部品欠品を防ぐために代替ルートの設定、陸揚げ港の変更、在庫の積み増しを検討するなど顧客・現地生産拠点と連携をはかり先手の対応を行っています。
