トヨタ新型ノア・ヴォクシーに採用! 日常の「困る」を解決する、日本古来の“あの”技術
2022.05.31
アイシンは、“移動”に自由と喜びを、未来地球に美しさを運び続けることを使命とし、eAxleをはじめとする自動車の電動化技術や、AIなど先端デジタル技術を活用した製品開発でより良い社会に貢献するさまざまなイノベーションを生み出しています。
しかしアイシンのイノベーションを支えるのは、高度な先端技術だけではありません。
アイシンはこれまでも、「ゼンマイの力だけで動く搬送台車」など、日本古来の「からくり」機構を活用した技術を積極的に生産に生かしてきました。
「からくり」のすごいところは、モーターや制御装置といった高価な部品を必要とせず、また電気や石油などエネルギー資源を一切使わずに、歯車やばねなどを組み合わせた機械的なしくみで装置を動かせること。お財布だけでなく地球にも優しい「カーボンフリー」な技術とも言えます。
今回は、そんな「からくり」を生かして日常の困り事を解決する画期的な製品、新型の「ノア」と「ヴォクシー」※1に採用されたアイシンの新製品「ユニバーサルステップ」と「フリーストップバックドア」について、開発者に聞きました。
※1 2022年1月 トヨタ自動車より発売
からくり活用で乗降性アップ!「ユニバーサルステップ」
「ユニバーサルステップ」とは、スライドドアの開閉と合わせてドア下からせり出してくるステップのこと。子どもから高齢者までが乗り降りしやすい、地面から約20センチの高さに出てくるよう設計されています。
この製品のうれしさを、開発担当の野村啓介に聞きました。
Q:乗降時に使用する電動ステップというと、福祉車両向けというイメージがあります。
野村:確かにそうですよね。ノアやヴォクシーはファミリー向けということで、車高は低めに設定されています。それでも高齢者など足のうまく上がらない方や小さなお子さんにとっては、高くて乗り降りしにくいんです。そういった家族がいるご家庭からは乗降用のステップは大変好評で、福祉車両だけでなく普通のファミリーカーの装備としてもかなり需要があります。
しかし従来の電動式ステップだとモーターや制御装置など高額な部品が必要で、どうしてもコストが高くなってしまいます。コストは価格に直結するので、より多くの人に手の届く価格で製品を提供するには、いかにコストを下げられるかがポイントとなります。そこで「低コストなステップで、乗り降りのしやすさを多くの人に届けたい!」というコンセプトのもと、開発がスタートしました。
Q:コストの問題はどのようにクリアしたんですか?
野村:従来の電動ステップは、ステップの出し入れ動作のためだけに、専用のモーターや制御装置などの部品が必要でした。そうなると重量や体積が大きくなり、価格も高くなってしまいます。
開発したユニバーサルステップは、世界トップクラスのシェアを誇るアイシンの「パワースライドドア」と「からくり」を掛け合わせ、ドアの開閉に合わせてステップを展開・格納します。
電力を使わず、また構造がシンプルなため、コストを電動式から大きく下げることができました。
今回の開発はプロジェクトメンバー全員が「良いものをつくりたい」という思いでひとつになったからこそ実現できたと思っています。誰もが安心・快適に暮らせる社会に向けた製品づくりを、これからも続けていきます。
世界初!好きな位置で止められる「フリーストップバックドア」
ノア・ヴォクシーなどミニバンに装備されたバックドアを、好きな位置で止めることが出来る世界初※2の「フリーストップバックドア」。こちらも「からくり」機構によって低コスト化を実現しています。
開発について、エンジニアの福田貴行に話を聞きました。
※2 当社調べ
Q:スーパーの駐車場などでバックドアが開けづらいなと思うこと、よくあります。
福田:そうですよね。狭い駐車場でトランクに荷物を積む時、背後の壁や柱が近くてバックドアが開けられない、バックドアが高い位置まで上がってしまい開け閉めが大変、という経験は誰しもあると思います。そこでバックドアを好きな位置で止められる新機構を考案しました。
Q:自動で開閉できるパワーバックドア(電動式のバックドア)と何が違うのでしょうか?
福田:パワーバックドアは、車室内のボタンやリモコン操作によって簡単に開閉でき、任意の角度でバックドアを止めることができます。ボタン1つで開閉できるメリットは大きいので、今後も主流でしょう。でも電気的な機構を使っているため、モーターや電子基板を搭載する必要があり、どうしても重量が増えたり、コストが高くなったりしてしまいます。
「フリーストップバックドア」は“人の力で簡単に扱えてコストも抑える”という命題のもと、電力を使わず、からくり構造で好きな位置でバックドアを止められるようにしたのがパワーバックドアとの大きな違いです。
Q:それが、世界初の技術ということですね。詳しく教えてください
福田:フリーストップバックドアの一番のうれしさである「任意の位置で止められる」ために、ボールペンノック機構(ノック式ボールペンの「1回押すと芯が出て、もう1回押すと戻る」しくみ)と、トルクリミッター機構(力の伝達を切り離すしくみ)を組み合わせた構造を考案しました。バックドアと中間ストッパーを連結ケーブルで接続させ、ドアを押すとケーブルの固定/可動できるようにし、ユーザーが意図する位置で止められます。
また、ドアを少し開けた状態で荷物を積み降ろししているときに、頭や背中で意図せず過負荷がかかってしまった場合などを想定し、クラッチ機構を追加して破損を防止できるようにしました。これらもすべて電気的な機構を使用せず、からくり機構や既存製品のノウハウを組み合わせたものを使用しています。
今のクルマは、ほとんどの動作に電気的な機構が用いられています。そんな中、からくりを活用したシンプルかつ斬新なしくみを開発できたのは、ユーザーの「困った」を何とか解決したいという強い想いから。
アイシンはこれからも、培った技術やノウハウのすべてを駆使してお客様の求めるものを最高の形で提供し、 “移動”に自由と喜びを運び続けていきます。