「止める」だけじゃない!ここまで進化した最新ブレーキ

~燃費や快適性の向上に貢献する回生協調ブレーキ~

2022.07.28

「止める」だけじゃない!ここまで進化した最新ブレーキ

回生協調ブレーキとは 

トヨタ自動車が初代プリウスを発売してから、四半世紀が経過しました。ハイブリッド車(HEV)はもちろん、今や街で電気自動車(BEV) を見かけることも珍しくありません。クルマを走らせる動力はエンジン(内燃機関)が主流ですが、モーターを使用するHEVやBEVなどの電動車の割合は間違いなく増加傾向にあります。

一般的にはまだ馴染みが薄いかもしれませんが、このような時代の流れとともに、「回生」や「回生ブレーキ」という言葉を耳にする機会も増えてきました。まずは、その基本的な仕組みをご紹介します。

モーターは電力を供給すると回転力を発揮してクルマを走らせることができます。一方で、減速時にモーターに回転力を与えると電力が発生します。つまりモーターは発電機としても機能する点が、燃料を利用して走るエンジンとは大きく異なるのです。

例えば、ドライバーがアクセルを緩めるとエンジンブレーキが掛かりクルマは減速します。モーターの場合でも回転抵抗によって同様に減速します。しかし、エンジンの場合は減速時に使用燃料をゼロにすることは可能でも、ガソリンを産み出しタンクに戻すことはできません。対するモーターは発電機能を活用することで、減速しながら電力を回収することができます。これを「回生ブレーキ」と呼びます。

夜間に自転車を走らせる時をイメージしてみて下さい。ヘッドライトを点けるためにダイナモを車輪に押し当てると、自転車の転がりが鈍くなりペダルを漕ぐ踏力が重くなります。ライト点灯用の電力を産み出すために抵抗が発生し、若干ですが自転車にはブレーキが掛かってしまうわけです。もし3つも4つもたくさんのライトを点灯するなら、ペダリングはもっと重くなります。発電量を上げると回生ブレーキ力も強くなる。モーターにはそのような関係性が存在しています。

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次に、これまでの基本を踏まえた上で「回生協調ブレーキ」についてご紹介します。これは電気エネルギーをより多く回収するために、クルマの4輪に装備されている機械式(油圧)ブレーキと回生ブレーキを高度に自動制御して使い分ける(協調させる)“かしこい”制御システムのことです。

ドライバーがブレーキペダルを踏むと、必要とされる減速度(ブレーキ力)をシステムが判断し、油圧と回生双方のブレーキ力を最適配分します。その結果、走行に使えるバッテリー量が増え、燃費(電費)を向上。エネルギー消費の削減に大きく貢献できます。さらに摩擦抵抗を発生して減速する機械式ブレーキの使用頻度が大幅に低減され、ディスクパッド等の消耗が減り、メンテナンスコストやブレーキダストの削減も果たしています。

時代をリードするアドヴィックスの回生協調ブレーキシステム

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アドヴィックスが開発した最新回生協調ブレーキシステムの構成部品である電子制御ブレーキシステム(左)とESC モジュレータ

アドヴィックスはアイシンのグループ企業のひとつとして2001年にアイシン、デンソー、住友電工、トヨタ自動車のブレーキ部門を統合して設立されたブレーキシステムサプライヤーです。

2022年5 月にリース販売が開始された話題のトヨタ「bZ4X」(BEV)に、アドヴィックスのシステムが搭載された点も見逃せません。大変革期にある自動車業界は、カーボンニュートラルや死亡事故ゼロが大きな課題となっており、実現が目前に迫る自動運転も含めて電動化への対応技術力がますます重要視されています。

アドヴィックスは、ハードウェアとソフトウェアの技術を融合させたブレーキ製品をシステムとして提案。回生協調ブレーキでは、HEV向けの豊富な生産実績を強みに、高効率で高精度な製品ラインアップをさまざまな大きさのクルマ向けにそろえています。

※ESC(Electronic Stability Control):横滑り防止装置

前後ブレーキの独立制御で、車両の姿勢安定に貢献

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ドライバーのブレーキ操作に違和感なく、回生ブレーキで得られる電力をより多く回収できないものか。効率改善に向けて研究開発を重ねる中で誕生したのが、「bZ4X」に搭載された「前後輪ブレーキの独立制御」です。
従来は4輪に同じブレーキ力を発生させていましたが、電子制御される油圧ブレーキの制御系統を前後輪で分けた点が注目されています。

上のイラストは、FF(前輪駆動)車の場合をわかりやすく表現したものです。ブレーキを踏んで停止するような時、今回の前後輪独立制御では、前輪油圧を減らして回生に頼る割合を増強。また、後輪油圧を高めることで車体後方のリフト(浮き上がり)を抑えています。
その結果、トータルで回生ブレーキの使用頻度が高められ、従来と比較して、燃費(電費)向上を果たすことに成功しました。

エネルギー回収の高効率化を目指したアドヴィックスの努力が、また一歩クルマを走らせるエネルギー効率のレベルアップに結実したわけです。さらにイラストに示す通り、減速停止時における車両の姿勢安定性にも貢献。もちろんそれは乗り心地への快適性向上がもたらされているのです。

運転が上手くなる⁉ 「なめらかブレーキ」

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前後輪ブレーキの独立制御システムは、トヨタグループのKINTO FACTORYが提供するアプリケーション「なめらかブレーキ」にも貢献しています。

下のイラストをご覧下さい。通常ドライバーがクルマを止める時にはブレーキペダルを踏みます。そしてブレーキが掛かると減速度でノーズ(車体前方)が沈み込み、乗員は前のめりになります。
その後、沈んだサスペンションが元に戻る(伸びる)ことも相まって、前のめりだった乗員は”カックン”と不快な反動を体感する運転になりがちです。

しかし、アドヴィックスが新開発した「前後輪ブレーキの独立制御」機能と独自開発したソフトウェアの投入で、停止時により繊細な前後ブレーキ力配分を成すことで、姿勢角変化(ノーズダイブ)を抑制し、停止時のブレーキ力解除具合にも配慮したスムーズで優しいブレーキ操作が可能となります。

この機能は、KINTO FACTORYの対象車種のソフトウェアを書き換えるだけで、後付け可能です。今後見逃せないアイテムとして、搭載車種の拡大が期待されています。クルマに同乗する大切な人に優しい走りを提供でき、運転が上手くなったと思われるかもしれません。  

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幅広い電動化技術を持つアイシンは、今回ご紹介したブレーキ関連だけでなく、eAxleといった電動ユニット、モーターやバッテリーなどの性能を最大限に引き出すための熱マネジメントシステム、車体の軽量化や空気抵抗の低減化に至るまで、クルマ全体の高効率化、省エネルギー化に貢献する多様な製品開発を進めています。

そして、リアルな移動の進化だけでなく、「心」を動かすようなあらゆる“移動”体験を、これからも世界中の人々に提供していきます。

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