明日の“笑顔”を守りたい。

~間近に迫る実用化、「子どもの車内放置検知システム」~ 

2022.07.04

明日の“笑顔”を守りたい。

「すやすや」と気持ち良さそうに眠る愛らしい姿は誰の目にも微笑ましく映る光景です。しかしそんな幸せのワンシーンが一転する、悲惨な事故に目を背けることはできません。それは炎天下のクルマの中に置き去りにされた乳幼児が、車内温度の急上昇による熱中症で命を落とす痛ましい事故です。あってはならないことですが、決して他人事ではありません。

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炎天下で閉め切られた車内の温度は10分もしない内に60℃に、直射日光の当たる場所は80℃近くまで上昇することがあるとの報告も

しかし事故は多発しています、それも世界規模で。アメリカ国内の調査データによると、1990年から2021年の32年間で累計1,018人、直近5年間では毎年平均で40人もの子どもが車内に放置されたことにより死亡しています※1。原因はいくつかありますが、注目すべきは事故発生要因の半数以上が、親が子どものことを「うっかり」忘れてしまう事だということです。

1 参照:KidsAndCars.org 「Child Hot Car Deaths Data Analysis 2.2022」

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参照:KidsAndCars.org 「Child Hot Car Dangers Fact Sheet」

幼い命が犠牲となる、悲惨な事故に社会の注目が集まり、アメリカではクルマに子どもの車内放置を検知するシステムの設置を求める法案「Hot Cars Act」 が提出されました。ヨーロッパでは、新型車の安全性に関する評価検証を行う公正な機関として知られるEuro-NCAP※2のロードマップ2025(2017年公表の自動車安全対策案)で、車内に置き去りにされた子どもの発見や保護などの機能も、クルマの安全技術のひとつとして必要だと指摘されています。国や地域によって異なりますが、このようにアメリカやヨーロッパでは「子どもの車内放置検知システム」が新型車に採用されれば、悲惨な事故から子どもを救えるのではないかと装備義務化への動きも始まっているのです。

自動車業界が一丸となって社会への取り組みを示す姿勢は、すでに排気ガスの浄化や衝突安全性の向上などで示されています。衝突安全面では乗員保護から歩行者保護へと目が移る中、「子どもの車内放置検知」装置であるCPD(Child Presence Detection System)が世界中で大きな注目と期待を集めています。

2 Euro-NCAP(European New Car Assessment Program)

子どもの車内放置を抑止する、確実な“お知らせ”を

過去のデータから判断できる通り、親の「うっかり」をなくすだけでも事故は半減します。つまりCPDの装備で悲惨な事故の減少に大きく貢献することができるのです。そこで求められているのが親の目の代わりになる信頼性の高い装置です。

通常子どもは後席に取り付けた子ども用シートに乗せるのが一般的です。しかし、このシートを監視するだけでは不十分です。なぜなら子どもは、私たちが想像できないほど多様な行動をすることが考えられるからです。そのため子どものあらゆる動きをカバーし、いかなる状況でも確実に車内放置を検知する高精度なセンサー技術が要となります。

センサー技術といえば、例えばカメラ、ソナー(音波)、レーダー(電波)などが挙げられます。

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カメラは静止画や動画による車内の状況把握に適していますが、レンズに映る対象物(見えるもの)しか判断できません。毛布にくるまれたり、物陰に隠れたりしていると認識できないのです。

ソナーは音波信号を照射して跳ね返り具合を受信し、対象物までの距離の変化に反応できますが、大きな動きがないと存在を検知できない可能性があります。例えば子どもが「眠っている」など動きが小さい時は、それが物体か生体かの判別が難しい場合があり、CPDを担う技術としては不安が残ります。

そしてレーダーは電波を送信して反射波を受信し対象物を把握します。電波が届く範囲であれば、おおよその形や動きを把握でき、明るさなどの環境による影響が少なく、安定した性能を発揮できるのが特徴です。受信データの解析技術もより高性能な物へと飛躍的な進化を果たしています。

アイシンでは、CPDを担う優れたアイテムとして、さえぎる物を透過して、微小な動きも高精度でセンシングできるレーダー技術に着目しています。

何としてでも痛ましい事故を防ぎたい。技術者の想いがつまったCPD

アイシンがCPDの開発に着手したのは2018年から。開発を担当する技術者の早川俊介は、毎日クルマで子どもを送ってから出社します。「事故のニュースを聞くと身につまされる思いがします。自分のうっかりで子どもを死なせてしまう、そのようなことを想像しただけでもいたたまれない。悲惨な事故を無くしていきたい」と静かな口調ながら開発への熱い思いを語ります。

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CPD開発担当 早川俊介

北米の研究開発拠点であるアイシン・テクニカル・センター・オブ・アメリカのClifford Malloy は「被害を受ける子どもは、車内の極限状態から自分の“身を守る”ことができる年齢ではありません。世界中のどんなクルマでも起こり得る不幸な事態へのリスクを減らす新技術を導入すべきです」と熱心にCPDの開発を推進する背景を話します。アイシンでは日本・北米・欧州のスタッフがタッグを組んで、世界のニーズをリサーチ。また装備の義務化で先行するアメリカの法規制が具体的にどのように定められるかを探りながら、子どもの存在を検出し車内放置であるかどうかを確実に判断する新しいセンサーの開発をスタートさせました。

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アイシン・テクニカル・センター・オブ・アメリカ Clifford Malloy

企画検討が進む中、CPDの要となるセンサーはルーフライニングの裏面に搭載できる薄型ミリ波レーダーを選択。センサーを複数使用して車内の広範囲をカバーする手法も考えましたが、解析技術も含めてできるだけシンプルな仕組みを探る中で見出されたのが、最新鋭のレーダーセンサーです。一つのセンサーで3列シートの車室内までカバーできるよう、電波の照射範囲を設定し、さまざまなテストが繰り返されました。実際に乳幼児にも評価テストに参加してもらい、例えばシートなどの物陰に隠れてみたり、毛布をすっぽり被せてみたりと、車内で考え得るあらゆる状況を検証。データ収集を積み重ね、CPDに求められる機能開発が徹底されました。

そのような開発評価を経て、ひとつのセンサーで3 列シートの車室内をカバーできるCPDを完成させることができたのです。

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さらにアイシンの優位性は、「より詳細な車内の状況把握を可能としている事でしょう」。(早川)           

使用するレーダー(Vayyar) は送受信のアンテナを多く持ち、送信は16、受信が19チャンネルに及んでいます。従来の一般的なレーダーは3~4チャンネル程度ですから、対象物を把握する解像度を飛躍的に高めることに成功しています。

レーダーは送信電波が何かに当たって戻る反射波の一部を受信して、対象物の距離(位置)を把握することができます。把握できるポイントが細かくなれば、対象物の形もよりクリアに見えてくるわけです。さらに電波の送受信は繰り返し行われているので、対象物の動きによる変化もとらえ続けることができるのです。

得られた情報を解析するレーダーユニット一体型コンピューターには、対象物の位置を示すドットデータが集積され、その変化具合によって子どもの動きも把握することが可能です。ドットデータで点描化された画像がCPDのコンピューターには、あたかも立体画像の動画を見ているかのようにとらえられているのです。つまりアイシンのCPDは、車室内の状況を細密に把握でき、結果として子どもが呼吸する時のわずかな胸の動きを検知し生体反応としてとらえ、子どもとそれ以外のものを的確に識別することが可能です。

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子どもの車内放置を検知し緊急事態と判断したなら、ハザードやホーンによる警告に始まり、スマホへの通知等のほか、技術的には当該国の規制に準拠するよう多くの付加機能を込めることも可能です。

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対処フローの一例

アイシンのCPDで“未来に笑顔を”

アメリカやヨーロッパでは販売されるクルマへのCPDの標準装備化はまもなく始まると予想され、ニーズはグローバルに拡大。日本も追従することは間違いありません。

「“移動”に感動を、未来に笑顔を。」を理念とするアイシンのCPDが多くのクルマに装備され、子どもの被災リスク低減に貢献できること、それが私たちの切なる願いです。

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