製造業だからできる技術と構造の革新。アイシンの「ものづくりの力」を探る

2024.03.29

製造業だからできる技術と構造の革新。アイシンの「ものづくりの力」を探る

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「カーボンニュートラル=脱炭素」という言葉は、「CO2を削減する」という手段だけを意味するものではない。

「CO2を削減することで気候変動を最小限に抑え、持続可能性と回復力を持つ社会を実現する」という目標を含めなければその真意は伝わらない。

言葉の意味はシンプルでも脱炭素の取り組みの全体像をつかむことは難しい。今後の国際的な協調については様々な予測があるが、そもそも地球温暖化の原因がCO2であるということに対してそもそも地球温暖化の原因がCO2ではないのでは、という見解もある。

しかし、脱炭素へ向かう世界の流れは止まらない。国・企業・個人それぞれのレベルで脱炭素への具体的な行動を起こすことが求められている。

そのような状況の中、自動車部品製造で世界トップレベルの売上収益を誇る株式会社アイシンは、長い歴史の中で磨き上げてきた「ものづくりの力」で脱炭素社会の実現に挑んでいる。

製品量産のために莫大なエネルギーを必要とし、そのために大量のCO2を排出する製造業にとって、脱炭素は容易なことではない。だが、取り組みを進めなければ世界の市場で生き残ることはできない。

「生産」と「脱炭素」の両立を、アイシンはどのような方法で実現しようとしているのだろうか?

脱炭素の2つの顔

世界が脱炭素に期待するものとして、「地球温暖化の抑制」と「経済成長への推進力」がある。

地球温暖化や気候変動による自然災害の頻発、農作物への被害などが深刻化し、化石燃料の使用を減らさなければ人類や生態系の存亡に関わるという危機感が高まる一方で、脱炭素化から生まれる革新的なイノベーションが産業構造の転換と経済成長を推し進めるという期待もある。

これら2つの成果を得るため、世界は脱炭素への動きを加速させている。

企業が達成すべきCO2削減目標とは

現在のCO2排出量の削減目標を規定しているのが、2015年のCOP21で採択され2016年に発効した「パリ協定」だ。

CO2削減目標の設定と具体的な行動をルール化し、途上国を含むすべての参加国が約束草案を提出している点で「歴史的な合意」といわれている。

パリ協定によって、産業革命前を基準とする世界の平均気温の上昇幅を2度未満に抑え、1.5度以下を目指すという目標に向けて世界が動き始めた。

しかし、各企業はいつまでにどれだけの温室効果ガス(CO2やメタンなど)を削減すればパリ協定の水準をクリアできるかがわからなかった。そのため、企業を対象とする削減のための国際的な指標が作られた。それが「Science Based Targets(SBT)」というもの。

SBTが対象とする削減対象はサプライチェーン全体の排出量であり、企業個々の排出量ではない。その企業の事業活動に関わるあらゆる排出量が対象となる。

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SBTを運営しているのは「Science Based Targets initiative(SBTi)」と呼ばれる国際的な組織・企業間のコラボレーション。

SBTiは、環境意識の高い企業に対して科学的知見と整合した削減目標を設定することを支援し、その目標がパリ協定の求める水準に適合していると認められた企業に対してSBT認定を与えている。

認定を受けた企業は、脱炭素に向けての明確なロードマップがあり、具体的なアクションを起こしていることを対外的にPRすることができ、ESG投資の促進などでメリットがあるといわれている。

アイシンもカーボンニュートラル実現に向けた様々な取り組みを進めた結果、設定したScope1、2およびScope3の温室効果ガスの排出削減目標がSBTiに評価され、2023年11月に認定を受けている。

製品と生産の両軸で脱炭素を目指す

アイシンは2021年8月に「カーボンニュートラル推進センター」を新設した。それまでは社内で個別に動いていた関係部門を集約し、全社横断的な組織として脱炭素の取り組みを推進している。

このセンターの中のカーボンニュートラル統括部でCP(Chief Project General Manager)という要職を担っているのが仁田博史氏。これまでに信頼性技術部、技術企画室、走行系システム開発部、トヨタ自動車技術部への出向など、主に技術畑でキャリアを積んできた。

現職に就く前は社長秘書として会社経営の視点も学んだという仁田氏に、アイシンの脱炭素の取り組みについて話を聞いた。

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──アイシンの脱炭素への取り組みの全体像について教えていただけますか。

仁田 購入原材料・部品から製造・使用・廃棄までを活動対象とし、 地域社会での「エネルギーと資源の循環および普及」を行うことで、生産と製品の両軸でカーボンニュートラル社会の実現に貢献していくというのが、我々アイシングループの取り組みの基本方針です。

製品面では、電気自動車の心臓部である駆動ユニット「eAxle」を中心としたクリーンパワーを実現する電動ユニット、車体関連製品、ブレーキなど幅広い製品群によって車両全体の燃費・電費性能の向上を目指しています。

一方、生産面では、工場から排出されたCO2の回収やその利活用による再資源化、バイオ燃料や水素活用、廃棄物から材料をリサイクルするなど、エネルギーと資源循環の取り組みを行っています。

──製造業として脱炭素に取り組むことの難しさはありますか?

製造業は、お客さまのニーズに応えるための製品を開発し、生産・販売することで社会に貢献しています。しかし、その過程でどうしてもたくさんのCO2や廃棄物が出てしまいます。

特に自動車業界は、製品であるクルマが走行時にCO2を排出するため、製品でも生産でもCO2を多く出しているというイメージがあると思います。しかし、実はカーボンニュートラルが叫ばれるようになる前から努力を積み重ね、低燃費や電動化に関する技術開発、省エネや再エネの活用など、大幅なCO2削減を実現してきました。

さらに、次世代エネルギーや再エネの活用が増える将来を見据え、業界全体として全方位で取り組みを進めていきます。

アイシンは「開発力」と「ものづくりの力」を強みとする会社ですから、製品そのものだけではなく、製品を作り出すプロセスそのものを改良することを得意としています。

「製品」と「生産」の両軸でCO2削減を達成していくことができるアイシンらしさを発揮しながら、脱炭素達成に向けた取り組みを続けていきます。

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資源採掘から製品廃棄まで、視野を広く持つ

──企業個別ではなくサプライチェーン全体で取り組まなければ脱炭素達成は難しいといわれますが、この点はいかがですか。

アイシンとしてやるべきことはやりつつも、資源の採掘から製品の廃棄までライフサイクル全体の流れの中でCO2を低減させるアイデアを出し、関連する方々と一緒にアクションを起こしていくということが私たちの使命だと考えています。

例えば、サプライチェーン全体でのCO2排出量割合が最も大きいのが、購入原材料・部品です。よって、ライフサイクル全体でCO2削減を進めるためには、仕入先さんとの協業が必須です。しかし、その仕入先さんの中でもどのように脱炭素の取り組みを進めていけばよいか悩んでいる会社もあります。

そこで、脱炭素に関する学び・気付きにつながる展示会の開催や、私たちと一緒に工場の生産現場を見ながら改善事例を共有する勉強会を行うことで、推進をサポートしています。

また、個人や企業だけではなく地域や国のレベルでも進めていかなければならない大きな課題であり、まずは愛知県や中部地区といった地域での連携を進めているところです。

生産と脱炭素のジレンマは解決できるのか?

製造業の使命は、地球環境を守りながら世の中を豊かにする製品を作り続けること。そのため、CO2の削減目標達成のために製品の競争力が下がるようなことがあれば、企業としては大きな痛手となる。

生産活動の維持とCO2排出量の削減を両立することは解決が難しいジレンマのように思えるが、アイシンはこの課題をどう解決しようとしているのだろうか?

生産現場で脱炭素に取り組む3人のリーダーに問いをぶつけてみた。

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──生産と脱炭素のジレンマは解決できるのでしょうか?

 物事の見方を変えることが重要です。ものづくりの力を極めていけば工場の生産性は上がるし、CO2の排出量も減っていきます。

生産現場にはまだたくさんの無駄があるので、製造工程を徹底的に調べて無駄を見つけたら残らず削ぎ落としていく。そうすれば製造のスピードも品質も上がり、結果的に目標達成に近づいていくことになるはずです。

──そのノウハウを他の工場や仕入先と共有し、全体の生産効率を上げるという取り組みをされているそうですね。

工場の製造現場に仕入先の担当者をお招きして、脱炭素に関する情報交流会を始めました。そこで私たちの取り組みの成果や状況などを共有するという活動を行っています。

それだけではなく、私たちからも仕入先の会社や工場を訪問させていただき、現場目線で設備を見ながら、無駄を省けるポイントがないかなどの会話をします。これを「工場・仕入先マッチング活動」と呼んでいます。1つの工場あたり3~4社の仕入先の担当者をお呼びして情報共有や事例改善の議論をしています。

このような活動を通して、ともに生産効率を底上げしていきたいと考えています。

──CO2を多く排出するアルミや鉄などの鋳造工程が多いため、生産現場での排出量削減のために革新的な取り組みが行われていると伺いました。具体的にはどのような内容でしょうか?

竹之下 愛知県西尾市にある西尾ダイカスト(※)工場に、リフトレス溶湯供給システムを代表とするキー技術を複数導入し、CO2排出量40%低減、生産性28%向上、品質不具合50%低減の生産ラインを実現しました。

※ダイカスト:アルミ合金などの溶かした非鉄金属を精密な金型の中に高速・高圧力で注入し、高い寸法精度の鋳物を短時間に大量生産する鋳造方式のこと。

この工場を「世界一のダイカスト工場にしたい!」という想いで生産の革新プロジェクトに関わってきました。CO2低減、品質確保、生産性向上、そして作業に関わる人たちの安全。それらをすべて同時に達成できる工場が今の時代に求められています。

──機械や設備の改良だけではなく、労働環境の改善も脱炭素の取り組みとして重要だということですね。

ダイカスト工場は「3K職場」と言われていて、「きつい・汚い・暗い」というイメージがあります。そのイメージを払拭するような快適で働きやすい環境作りを目指しています。

脱炭素という掛け声だけでは現場のみなさんの心は動きません。作業に関わる方々が気持ちよく働けるような環境を提供できれば自然に生産性は上がりますし、同時にCO2削減にもつながることを伝えることで、みなさんに「この工場で働きたい、環境にも貢献したい」と思ってもらい、働きがいを感じてもらいたいと思っています。

──生産後に排出されるCO2の削減についても革新的なプロジェクトが進んでいると聞きました。

山本 工場の燃焼設備で発生する排ガス中に含まれるCO2を分離・回収し利活用する「資源循環システム」と呼ばれるプロジェクトです。

回収したCO2からメタンガスを生成し、工場の燃料として循環させます。2035年の生産脱炭素実現に向けた主要なソリューションのひとつとして開発者たちが挑戦を続けています。

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──プロジェクトの立ち上げからわずか1年9か月というスピードでシステムの始動と評価開始を達成したそうですね。

これだけの速さでプロジェクトを進めることができたのは、トップの強い想いとメンバーの士気が高かったことが大きいですね。僕らが頑張らないとアイシンの脱炭素達成の日が遠のいてしまうという気持ちがありました。

2035年にグローバルレベルで生産脱炭素を達成するためには日本国内で2030年にそれをクリアしていなければ間に合わない。そういうスケジュールで考えた結果、今やるべきことが見えてきたのです。

──具体的にどのような方法でプロジェクトを進めていったのですか?

最速で目標を達成するため、要素技術(新しい製品の開発に必要な基本技術)を考えながらラボで資源循環システムの装置を作っていきました。

要素技術の検討を終えてから装置を作り、装置が出来上がってから工場に設置するという順番が普通の進め方です。しかし、今回はスピードが求められていたので、要素技術・装置開発・工場実証という3つのステップを同時に一気に進めていきました。

通常は、要素技術から装置の開発まで5年くらいかかるものです。今までやったことのない取り組みに対して、データを積み上げながら進めていきました。

ものづくりの力が生み出す異色の協業と新技術

アイシンと建設会社とがタッグを組んだ異色の協業がある。

アルミの溶解炉などから排出されるCO2を原料の一部として使ったコンクリートを製造し、環境負荷の少ない社会インフラとして活用するプロジェクトだ。

2022年から大成建設と共同開発を進めているもので、アイシン独自の技術を活用する。アミノ酸を利用して排ガスに含まれるCO2を炭酸カルシウムとして固定化し、大成建設の「カーボンリサイクル・コンクリート」の製造時に材料として利用することで、コンクリートの製造過程におけるCO2排出量収支をマイナスにできるという。

2030年ごろまでの実用化を目標に、愛知・岐阜・三重の東海3県におけるカーボンリサイクルのサプライチェーン構築を目指す。

脱炭素達成のカギは「ワクワク」の力

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──生産現場で脱炭素に取り組む柴さんの思いを聞かせてください。

 地球温暖化やエネルギーの枯渇といった環境問題を将来に残したくない、という思いがあります。

いまできることは、工場で使うエネルギーを減らしてCO2を出さないようにすること。個人の力は限られていますが、全員で取り組めばとてつもなく大きな力になります。

私たちは「ものづくりのプロ」です。そして、トヨタグループとして培ってきた「カイゼン」のスキルも持っています。それらの力を、エネルギーを出すことよりもエネルギーを抑える・使わない方向へと向けていくことができれば、予想以上の成果を出せるかもしれない。

その夢を実現するための方法を考え、会社のみんなやビジネスパートナーの方々と会話することを意識しています。

──全社的な脱炭素推進のリーダーを務める仁田さんのビジョンとは?

仁田 結局、人の気持ちが動かなければ取り組みは進みません。脱炭素に関わるみなさんが、CO2削減の重要性や意味、効果を知って積極的に取り組み始めたら、我々カーボンニュートラル推進センターは不要になると思っています。脱炭素の取り組みが通常業務の一環になる時を1日でも早く実現できるよう頑張っていきます。

私事ですが定年まで1年半となりました。脱炭素に関わりながら「最後に面白いことをやらせてもらっているなあ」とワクワクしながら仕事をしています。

脱炭素は私たちの未来を左右する大きな課題です。美しい地球を守るため、アイシンは挑戦を続けていきます。


構成・執筆:千代明弘、花岡郁
編集:千代明弘、花岡郁
撮影:森カズシゲ
デザイン:月森恭助
制作:NewsPicks Brand Design
※このコンテンツは、株式会社アイシンのスポンサードによってNewsPicks Brand Designが制作し、NewsPicks上で2024年3月22日に公開した記事を転載しています。
https://newspicks.com/news/9684626
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