神内 直也

神内 直也

イノベーション

アイシンの電動化プロジェクトeAxle開発の原動力は
人と地球を想う心

人とクルマの未来を考えたとき、そこには常に地球規模の問題が横たわる。たとえば地球温暖化や大気汚染といった、クルマから排出されるCO2が原因となって引き起こされる環境問題だ。世界中のカーメーカーはこうした問題の解決に向けCO2排出量削減が期待できる電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)といった「電動車」の普及を目指している。そこで注目されているのが、次世代駆動ユニットeAxle(イーアクスル)だ。1980年代から世界に先駆け電動化開発を続けてきたアイシンは、100年に一度の大変革期を迎えた自動車業界で今、サプライヤーとしての生き残りをかけたビッグプロジェクトに挑む。そのリーダーである神内直也に聞いた。

eaxleで描くクルマの未来

interview

Index

  • 1. 電動化の要eAxle(イーアクスル)とは
  • 2.「正解」のない開発で活きる経験
  • 3. EVの弱点を克服する多段変速eAxle
  • 4. 子どもたちの未来のために

神内 直也

eaxle開発 神内 直也

eAxleの説明をするイメージ画像

1/電動化の要
eAxle(イーアクスル)とは

eAxleとは、電動車に不可欠なトランスアクスル、モーター、インバーターを一体化した駆動ユニット。アイシンのeAxleは環境対応だけでなく、運転する喜びや楽しさにも活かすことができる、いわば電動車の「心臓」だ。eAxleの開発は世界中で急務となっており、エンジニアたちによる激しい開発競争が繰り広げられている。

ライバルも増える。電動化によって自動車業界へ参入するハードルがぐっと下がったからだ。これまで異業種だった産業用機械や電子機器メーカーが続々と名乗りを上げている。既存のサプライヤーは、進化の歩みを止めてしまったらそのシェアを根こそぎ奪われかねない。

そんななか、アイシンが手掛けるeAxleとは何か。プロジェクトリーダーの神内は言葉に力を込める。

「世界トップを誇るトランスアクスルの開発技術とHV(ハイブリッド車)で培ったモーター開発のノウハウがアイシンにはあります。それに加え、人の命に関わるクルマと、ずっと向き合ってきた誇りがあります。だからこそ私たちが開発するeAxleは、どこよりも安心、安全でより多くの人が楽しめるものでなくてはなりません」

eAxle開発背景にある
大きな時代のうねり

eAxle開発の背景には、地球温暖化や大気汚染といった、人とクルマの未来を考える上で避けて通ることができない、深刻な環境問題がある。
世界中で厳しい燃費規制が敷かれたことで、CO2を排出しない動力を活用する車両の開発が進むなか、IoT化の進展もあいまって、Connected(コネクティッド)Autonomous(自動化)Shared/Service(シェアード/サービス)Electric(電動化)=CASEと呼ばれる新しい領域での技術革新が本格化し、電動車開発を後押しした。

eAxleの説明をするイメージ画像2

2/「正解」のない開発で活きる経験

アイシンの電動化技術の開発は、ここ数年で始まったことではない。1980年代から世界に先駆けて着手しており、AT(オートマチックトランスミッション)やHV、ならびにその制御などの分野に活かされてきた。その経験と実績を武器に、2016年9月、神内を含む10数名のエンジニアが中心となって、eAxleの開発を本格的にスタートした。

しかし、開発は思うように進まない。なにせ世の中が今後、どのように動くのか、カーメーカーですら一歩先の未来が予測できない現代だ。「正解」が誰にもわからないなかで新しいものを生み出すことは、簡単なことではない。神内も頭を抱えることが少なくなかったが、希望はあった。

「年齢やキャリアが多彩で、それぞれ個性が強いチームですが、技術の前では誰もが平等だ、とみんなが理解しています。だから意見をぶつけ合いながらも、一歩ずつ前に進んでいる実感はありました」

限られた時間のなかで、様々な先行開発ユニットを10台以上製作し、性能を確認するための試作車両も制作した。そうして多方面から仮説と検証を繰り返し、エンジニアたちの熱い想いが詰まったeAxleの原型がかたどられていった。

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3/EVの弱点を克服する
多段変速eAxle

2017年頃から、アイシンではグループ内の連携の取り組みが加速し、多くのリソースがeAxleの開発チームに割かれることになった。

こうして組織基盤を強化して挑んだのは、プロジェクトスタート時から一番の問題としていた「加速と最高車速の両立」だ。電動モーターのサイズや出力を上げれば可能であるが、それでは必要以上に大きいサイズや出力になってしまい、限られた車両搭載スペースのなかでは成立しないという課題があった。その課題を解決するために必要になるのが「変速できるeAxle」だった。

注目したのは、変速時にドライバーが感じるショック。EVの多段変速が可能になったとしても、ここが解決できなければ、EVのよさである加速のワクワク感を損なってしまう。

「ぐんぐん加速していく感覚を残しつつ、変速は気づかないほどなめらかにしたいです。これは、ATとHVで培ったハードウェアであるトランスアクスルとモーターの技術、それをコントロールする制御技術という、アイシンが持つハードと制御のアドバンテージを最も活かせる開発分野です」

EVでありながら、ドライバーが気が付かないほどのなめらかな変速と胸のすくような加速感を提供するため、2段変速eAxleは現在も開発を続けている。

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3/子どもたちの未来のために

自動車業界は100年に一度の大変革期を迎えている。今後、より電動化が進み、EVが普及した先には、どのような未来が待っているのか。神内は、まっすぐ前を見て答えた。

「これからのクルマづくりは、今まで以上に環境への配慮をセットに考えなければなりません。しかしそこにゴールはありません。ゴールを定めてしまったら、その時点で進化は止まってしまいます。私たちエンジニアはきっと、常に最高の仕事を続けながら、大切な人や、子どもたちに、どうすればよりよい未来を築けるかを考え続けなければならないのだと思います」

2019年、アイシンは次の一手として、デンソーと共同でeAxleの開発・適合・販売に特化した新会社BluE Nexus(ブルーイーネクサス)を立ち上げた。

未来のため、クルマの進化とともに、これからもeAxleは進化を続けていく。

eAxleの画像

eAxle
トランスアクスル、モーター、インバーターを一体化した駆動ユニット。トヨタの新型BEV(電気自動車)車両「C-HR」、「IZOA」、レクサス初の市販BEV「LEXUS UX300e」に搭載。

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