未来のクルマ社会、こうなるかも。アイシンの新技術を試乗体験

2026.10.26

未来のクルマ社会、こうなるかも。アイシンの新技術を試乗体験

「もしも車がドライバーのクセを覚えてくれたら」「近づくだけで車のドアが開くのが当たり前になったら」……そんな「もしも」が実現したとき、どんな日常が私たちを待っているのでしょうか?
ドア、パワートレイン、車体、ブレーキなど、クルマの「走る・曲がる・止まる」を支える幅広い技術を持つアイシン。そうした技術を組み合わせながら、新しい移動体験の実現に挑んでいます。

この記事では、開発中の技術を体験できる「“移動”の価値体験試乗会」をレポート。人の動きを理解してドアが開く技術や、運転する人に合わせてクルマが変化する技術など、5つの新技術を実際に体験しました。その驚きやワクワク、そしてその先に広がるクルマの未来像について、自動車ライターの遠藤イヅルさんがお届けします。

豊頃試験場で、アイシンが開発中の新技術を体験

驚異的なスピードで進歩しているクルマの世界。アイシンは2026年2月に発表した「2028年中期経営計画」のもと、未来の移動体験につながる技術開発を進めています。そこで、新技術がもたらす「未来のモビリティ」を具体的にイメージできる機会として、北海道の豊頃試験場で試乗会が開催されました。

試乗会では、開発中の新技術を搭載した試乗車を用意。アイシンが培ってきた「走る・曲がる・止まる」の技術がつながることで実現する未来が、思った以上に近くまで来ていることを実感しました。

▲自然溢れる豊頃試験場に新技術を搭載した実車がズラリ

「乗る」の未来:人の意図を理解するクルマ

最初に体験したのは、乗ろうとするとドアが自動で開く「ストレスフリーエントリー」です。荷物を持っていたり子どもを抱っこしたりして両手がふさがっているときに、目の前のドアがスッと開いてくれたら嬉しいですよね。
この技術は、カメラやセンサーで人の位置・向き・移動方向・速度などを検知し、「乗ろうとしているのか」「どのドアへ向かっているのか」をクルマが判断します。ジェスチャーなどの操作は不要。必要なドアだけが自動で開閉してくれます。

▲乗り込む意思を検知し、必要な時だけドアが開く

▲カメラやセンサーで人の動きを検知

実際に体験してみたところ、乗り込もうとしたタイミングで目の前のドアだけが開きました。しかもスライドドアだけではなく、フロントドアにも対応しています。

▲なんとフロントドアも対応

実際に体験するまでは、「スライドドアとフロントドアを間違えて開いてしまわないのだろうか」と半信半疑でした。しかし、クルマは人の骨格や動きから行動を予測し、乗ろうとしているドアを正確に判断。まるでこちらの意図を理解しているかように希望どおりのドアを開けてくれます。また、クルマの前を通り過ぎるだけの人と、実際に乗車しようとする人を見分けるため、意図しないドアが開くことも防げます。さらに、車両周辺の不審な行動を検知し、車上荒らしなどの異常を早期に把握することも可能です。

▲骨格や動きを検知する様子

この技術が進化すると、クルマは人の指示を待つ存在から、人の状況や意図を理解して、自然に応えてくれる存在へ変わっていくでしょう。自動でドアを開けてくれるだけでなく、たとえば低速自動運転や自動駐車といったアイシンの他の技術と組み合わせることで、出かけようと思ったときに家の前で待っていてくれたり、行動パターンを察知して目的地を自動で提案してくれたり……空想は広がります。

「走る」の未来:移動時間がもっと快適に

続いて体験したのは「機能統合電動ユニット(Xin1)」です。来るべきBEV時代に向けて開発された製品で、クルマを走らせるために必要なさまざまな機能を一つにまとめ、極めてコンパクトにしていることが特徴です。

▲小型軽量化した機能統合電動ユニットXin1

乗る前にボンネット内を覗くと、Xin1は思った以上にコンパクトでした。占有スペースは従来品と比べて約60%削減されたとのことです。
試乗会では、量産軽BEVと、Xin1搭載車を乗り比べました。実際に走ってみると、Xin1搭載車はきついカーブでも車体が安定しており、より安心して運転できる印象でした。

この安定感の理由の一つは、ユニットの小型・軽量化による低重心化です。車体の重心が下がることで、カーブでもふらつきにくく、より安定した走りにつながるそうです。
さらに小型化により、車体デザインやレイアウトの設計自由度も広がります。未来のクルマは、移動するだけの空間からより快適に過ごせるリビングのような空間へと進化していくのかもしれません。
自動運転でハンズフリー走行をしながら、家族みんなで映画を観たり、ゲームで遊んだり、食事を楽しんだりできる――そんな未来が待っているのかも。

「曲がる」の未来:思い通りの操縦性へ

次に体験したのが、「TEKIZAIボデー」です。クルマの車体には一般的に鉄が使われていますが、軽量化や生産効率向上を目的に、近年はアルミを一体成形する「ギガキャスト」が注目されています。一方で、修理や部品交換のしやすさなどには課題もあります。
TEKIZAIボデーは、一般的な鉄ボデーとギガキャスト、それぞれの良さを生かした新しい車体構造です。鉄やアルミの特性から車体開発まで幅広い知見を持つアイシンならではのアプローチと言えそうです。

試乗会では、鉄ボデー、ギガキャスト、TEKIZAIボデーの3台を乗り比べました。鉄ボデーはコーナーでふくらみがちで、ギガキャストはシャープに反応する中、TEKIZAIボデーはまさに「ちょうどよい」ハンドリングと乗り心地を実現していました。
その理由は、車体の剛性としなやかさのバランスにあります。クルマの骨格が適度に硬いと、カーブを曲がる際に車体にねじれが起こりにくくなり操縦性がアップするのです。

▲TEKIZAIボデーを採用した試乗車では車線変更時の負荷も低減

加えてメンテナンス性も向上。車体の一部をアップデートしながら長く使えるようになれば、環境にもやさしく、一人ひとりのニーズに合わせたクルマづくりにつながるかもしれません。

「止まる」の未来:交通事故ゼロをめざして

4つめのシーンは「止まる」です。重いバッテリーを積むBEVは車重も増大する傾向があり、より高い「止まる能力」が求められています。試乗会には、次世代ブレーキシステム(Electro-Mechanical Brake)を搭載した試乗車も置かれていました。
一般的なクルマがオイルの圧力でブレーキを作動させるのに対し、次世代ブレーキシステムは電気信号で制御します。より素早く正確にブレーキをかけられるのが特長です。

▲次世代ブレーキシステム

試乗では、指定の速度まで加速した状態でブレーキをかけると、あっという間にクルマが止まりました。その効き方は、今まで経験したことがないレベル。次世代ブレーキシステムの応答性の高さに大いに感心しました。

▲ピタッと止まる

より素早く確実に止まれるようになれば、緊急時の追突や衝突事故の低減にもつながります。近い将来、交通事故ゼロの世界を実現するために必須となる技術といえるでしょう。大切な家族や友人を含む、クルマに乗る人全員が安全に移動できる未来の実現に期待が高まります。

「運転」の未来:一人ひとりに寄り添うクルマへ

5つめは「運転中のシーン」に注目してみましょう。アイシンは、「走る・曲がる・止まる」というクルマの基本性能を支える幅広い製品や技術を開発しています。この強みを生かし、駆動系、ブレーキ、足回り、操舵系などクルマの各システムを連携させ、クルマ全体を最適に動かすことをめざす「車両運動統合制御」の開発を進めています。

さらにドライバー情報や車両の状態、地図情報、クラウドデータなどの各種データを組み合わせてクルマが状況を理解し、さらに先読みも行い、一人ひとりに最適な走りを実現することも目標としています。
そこで試乗会では、車両運動統合制御の具体的な例として、クルマが人に合わせてくれる「パーソナライズ」と、クルマのキャラクターを変えられる「コンバージョン」という機能を搭載した2種類の試乗車に乗ることができました。

まずはパーソナライズ。この技術では、ドライバーに合わせてクルマが運転特性を変えるだけでなく、その人に合った特性を提案してくれます。
短い試乗コースを少し走っただけで、クルマが筆者の運転特性を分析。ドライビングに合わせた車両性能をセッティングしてくれたので、その状態で改めて同じコースを走らせたところ、先ほどよりもスムーズにコーナーを曲がっているのがわかりました。

▲ドライバーのクセを分析して動作を調整してくれる

これなら、たとえばペーパードライバーや山道での運転に苦手意識があるような人でも、安心して運転できたり、積極的にドライブに出かけられるようになったりしそうです。
たとえば未来では、ドライバーの年齢や健康状態にあわせて運転をサポートしてくれたり、旅行先のレンタカーをいつもと同じ感覚で運転できたりするかもしれません。誰もが安心して移動できるようになれば、地域や旅行先での移動課題の解決にもつながりそうです。

「楽しむ」の未来:気分にあわせて車の個性を変化

そしてもう一つの車両運動統合制御であるコンバージョンは、根源的なクルマの楽しさを味わうことができました。
現代では、モードを変更してスポーツ走行に向いたセッティングに変えられるクルマは珍しくありませんが、実質的にはあくまでも「そのクルマ一種類のモードチェンジ」にとどまります。ところがコンバージョンを使うと、なんと他のクルマに変身できてしまうというのです。

試乗車では、2リッター直6エンジンを積む1960年代の国産名スポーツカー、V10エンジン搭載のスーパースポーツカー、V8エンジンを搭載したアメリカンマッスルカーなど4車種の車両特性がインプットしてありました。
実際に乗ってみると、加速感だけでなくハンドリング、車内に響くエンジン音までクルマごとに徹底的に再現されていることに驚かされました。目に入る内外装やギアの操作方法はインプットされた各車とまったく違うのに、それぞれのクルマに乗っているような没入感やワクワク感が得られたのは興味深いポイントでした。

▲ クルマの性格を変身させられるコンバージョン機能

いちクルマ好きとして、アイシンが自動化の方向だけでなく、クルマ本来の魅力である「クルマを走らせる楽しさ」にも真摯に向き合っていることをとてもうれしく感じました。BEVでもエンジン車のような、走りの楽しさを実現することは可能なのです。これなら、BEVが普及しても多くのクルマ好きの心をキャッチできるはずです。

車両運動統合制御とBEVだからこそできる、「自分好みのクルマに変身させる」という考え方は、1台のクルマでもさまざまな楽しみ方があることを教えてくれました。
コンバージョンが一般的な装備になった未来のクルマでは、日々のルーチンとしての移動は自動運転で楽々こなし、週末の楽しみとして「今日はあのスーパーカーのフィーリングでドライブしよう」なんて使い分けができるようになるかもしれません。

新技術がもたらす「新しい移動体験」の実現に期待

今回の試乗会で体験した新技術はいずれもクルマを運転する人、乗る人にとって、今よりも便利で安心な毎日を提供するもの。未来的でワクワクする技術もあって、「いつかこんな移動が当たり前になったらいいな」と思わされる試乗体験でした。

しかしこれらは夢物語ではなく、実用化に向けて開発が進められている「現実の技術」です。つまり未来は想像以上に近く、すでに手が届くところにあるのです。

こうした技術の進化や、さまざまな技術との連携によって、たとえばこんな未来社会が想像できます。    

家のドアを開けると外にクルマが待っていて、自動でドアを開けてくれる。乗り込むと、カレンダーアプリから取得した目的地をドライバーのヘルスデータとともにディスプレイへと表示。子どもたちが乗り込むのを待ってから目的地候補にOKを出しつつ、自動運転モードに。運転席のシートを反転させて子どもたちの席と向かい合わせにして、これから向かう日帰り旅行の訪問先を動画でチェックする。交通事故のニュースはもう長いこと聞いていない。旅行の帰り、静かな車内ですやすやと眠ってしまう子どもたち。運転手はドライブを楽しむため、自動運転モードをオフにして、コンバージョンをオンにする。今日はどんな運転を楽しもうか――。

今回体験したのは、乗る、走る、曲がる、止まる、そして運転を楽しむまで、一連の移動を支える新技術です。ドア、電動ユニット、車体、ブレーキ。それぞれの技術をつなぎ合わせることで、移動はもっと便利に、安心に、そして楽しくなる。アイシンが掲げる“移動”の価値が着実に形になり始めていることを実感した試乗会でした。今後も、新技術が実現する移動の未来に期待したいと思います。

【ライタープロフィール】
遠藤イヅル(えんどう・いづる)
コピックで絵を描く自動車・鉄道系イラストレータ&ライター。温泉ソムリエ。雑誌版カーセンサーの表紙イラストを2017年から担当中。マイナー・実用・商用車系のイラスト・記事が得意。「懐かしの商用車コレクション」の監修も行う。日産VWサンタナXi5アウトバーンDOHC、B11型日産サニーカリフォルニアを所有。

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