現場の知恵を〝標準化された仕組み〟に! 人を主役に進化するアイシンの「ものづくりDX」

2026.04.15

現場の知恵を〝標準化された仕組み〟に! 人を主役に進化するアイシンの「ものづくりDX」

100年に1度の大変革期といわれ、電動化や自動化などの成長分野で熾烈な競争が続いている自動車業界。その中でグローバルに勝ち抜くためには、新製品の開発だけでなく、ものづくり自体の変革が待ったなしの状況となっています。

こうした中、アイシンは2028年中期経営計画において、事業構造改革をさらに加速するためDXを活動の中核に据える方針を示しています。製造業は長年磨かれてきた技能、ノウハウ、暗黙知などの現場力に支えられてきましたが、次世代への継承が課題となっており、アイシンはそれらをデジタルで再現してデータ化し、標準化された仕組みで回るプロセスへの変革をめざしています。今回は、グローバルでの競争力強化に向け推進する、アイシンのものづくりDXの今に迫りました。

情報を一元化し全社横断の情報連携プロセスを最適化

アイシンのものづくりを、グローバル競争で勝ち続けられるものにするために、DXで何ができるか。アイシンはその答えを求め2つの軸で推進しています。1つは商品で競争力を高めるため進めているプロセス革新による電動化への対応。そしてもう1つが、新事業の創出をめざした成長領域へのシフトです。

この中で今回紹介するのが、新たなものづくりのプロセス革新として構想している「Cyber/Physical Information FactoryCPIF)」への取り組みです。その実現に向けまず解決すべき課題とされたのが、熟練者の技能や経験など、暗黙知を含めた人の力量に依存している属人化で、ものづくりDXを主導している宮田昌浩は、「属人化は経営判断の遅れにつながりますから、そこから脱却するには経験値をしっかりデータとして資産化し、組織全体を強化する必要があると考えました」と話します。

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ものづくりDXを主導する宮田昌浩

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管理監督業務の改革を担当する森下禎洋

デジタルを活用して暗黙知が言語化できれば、人への依存から標準化された仕組みで回るプロセスへの変革が可能になります。そして、この標準化の仕組みが全ての工程に浸透して連携していけば、必然的に迅速な経営判断にもつながるのです。

その実現のために不可欠なのが、工程設計情報の一元管理として進めている「ものづくり情報DB(データベース)“独自のBOP(製造工程表)”」です。工程情報を集約して一元化することで、様々なプロセスでの情報の利活用が可能となります。さらにIoTで進めている現場で収集したリアルなデータ(IoTプラットフォーム)との連携まで行うことで、「製品と部品の工程にいたるまでの『ものづくり情報』を一元管理し、製品ライフサイクル管理(PLM)を再構築して全社横断の情報連携プロセスを最適化していくことが、私たちがめざすDXです」(宮田)。

「だたし、現場のプロセスを変えることには管理監督者を説得する苦労もありました」。そう話すのは宮田とともに管理監督業務の改革に取り組んでいる森下禎洋です。そこで、システムのテスト版もつくってプロセスを変えることの利点を粘り強く説明し、実感してもらってきました。森下が見据える将来の理想像は価値のある作業しかしていない現場で、プロジェクトを通じてそのうれしさを伝え、管理監督者になりたい社員を増やしていくことをめざしています。

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ものづくりDXを推進している安城第2工場のeAxle第2世代の生産ライン

独自BOPで暗黙知をデジタル資産化し属人化解消

それでは、アイシンのものづくりDXは具体的にどう進められているのでしょう。まずポイントとなるのが「独自のBOPの開発」です。これは、各製造拠点の情報や、工場内のライン情報、設備や治具の情報、さらにそれらを使ってどんな条件で製品を加工し、どんな品質項目を管理していくのかなどを体系的に捉え、情報データベースとして一元管理されるものです。例えば、製品を形状変更するため工程を3Dモデルで確認したいと思った際、必要な設備のCADデータに素早くアクセスできるイメージです。

ただし、BOPの開発にあたり、現場でしくみづくりを推進したメンバーは苦労も多かったといいます。

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BOPの開発に取り組んでいる(左から)小澤秀之、西田千智、杉浦義文

「まず、BOPの意義やメリットに各部門の理解を得る苦労がありました」と話すのは工程設計出身の杉浦義文です。「過去の経験を生かし業務効率や品質向上につながることを地道に伝えてきた」と話します。また西田千智は、工程設計の担当者からは「今の運用を変えたくないといった声もあった」と振り返ります。

このため、「働く人のためのDXへの必要性を粘り強く伝えることで、理解を得られるようになった」と実感を込めます。その上で小澤秀之は、「こうしたメンバーの努力により、多岐にわたる製品を生み出すアイシンならではのBOPに仕上がった」と話します。こうして、全社に協力する流れが醸成され、属人化の解消につながるデータの一元管理が進められてきたのです。

eAxleの機種追加の生産準備をデジタル上で実施

一方、製造工程で設備の完成度を高めるため、事前にシミュレーションを行う「バーチャルコミッショニング」の実用化に取り組んでいます。その進捗について、生産技術担当の青山洋介は、「すでに、電動車の動力源となる電動ユニット『eAxle(イーアクスル)』の機種追加において、生産準備をデジタル上で進めており、一定の手応えが見え始めています」と紹介します。

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eAxleの機種追加生準について解説する青山洋介

これは、ロボットによるリアルなフィジカル空間の工程を、バーチャル上で設備の挙動を再現させるもので、新しい機種追加や不具合検証などを事前に行えます。「従来、センサーやボタン1つまで再現して検証するバーチャルコミッショニングはなかなかありませんでした。アイシンではそれをつくり上げ、eAxleの機種追加生産準備で実用化しています」(青山)。

ロボットによるリアルなフィジカル空間の工程を、バーチャル上再現.png

バーチャルコミッショニングの大きな利点は、例えば、フィジカル空間では製品が落下すれば壊れてしまいますが、サイバー空間ではボタン1つで落下する前に戻して原因を検証することが可能で、改善につなげることができます。ただし、その開発に向けては、BOPの開発と同様、推進メンバーには様々な苦労があったと言います。

実際の生産ラインでデータの可視化・標準化が進展

開発段階の苦労について担当メンバーの永井聖太郎は、「設備構造、ロボット制御、電気制御だけでなく、ネットワーク構築などの知見を網羅的に高める必要があり、さらに自分がわかるだけでなく、協働する製造メンバーに伝える難しさがあった」と話します。このため自らの知識を学習により深めつつ、標準化・言語化することに注力し実用化につながったそうです。また佐藤泰成は、「アイシンらしく様々な得意分野を持つ仲間が集まり、その力が融合したことでつくり上げることができた」と話し、「その素晴らしさは、触れてもらえればきっと実感できるでしょう」と笑顔を見せます。

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バーチャルコミッショニング担当の(左から)河田真一、佐藤泰成、永井聖太郎

リーダーの河田真一も、「フィジカル空間で業務をしてきた社員に、デジタルツインの実機に触れて納得してもらうまでが大変だった」と言います。その上で、「制御回路の質向上だけでなく、サイバー空間における物理的・心理的負担の軽減など多くのメリットが見えてきてからは、やりがいや面白さが倍増した」と話します。

加えて、様々な部署間の垣根が取り払われた連携は大きな成果につながったということで、システム開発からBRBusiness Reform)プロセス部門、工程設計部門、製造部門など、ワンチーム体制が大きな役割を果たしたということです。現在、実際の製造現場としてeAxle2世代のライン生産やセル生産では標準化が進んでいます。今後はさらにデータの可視化が進み、定期的にフィードバックをかけられるような仕組みまで進んでいけば、取り組みの成果がより実感できるようになるでしょう。

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データの可視化や標準化が進展している、eAxle第2世代のセル生産ライン

ものづくりDXが働きがいやエンゲージメント向上に

ものづくりDXは働く人のためのDXでもあり、その視点での成果も重要です。実際、これまでの検証結果から、バーチャルコミッショニングを活用することで、生産準備期間の大幅な短縮や、市場投入スピードの向上が見込めることが分かってきました。このようにものづくりDXは働く人にも利点が多く、業務プロセスの変革により付加価値の高い働き方が期待できます。

推進メンバーからも、「生産性や品質向上のためものづくりDXに取り組むうち、同じ生産技術者としてそれがやりがいや仕事への誇りに直結していることを実感する」という声が聞かれます。まさに、働きがいやエンゲージメント向上につながっているようです。

DX」を「DX(エックスディー)」にして皆を笑顔にするものづくり

「アイシンが進めるものづくりDXは現在が完成形ではなく、ここからが挑戦へのスタートラインです」と、プロジェクトを主導する宮田は話します。ものづくりDXは導入ではなく、進化し続けるものであり、次にめざすのは、冒頭で紹介したデジタルツインの世界である「Cyber/Physical Information Factoryの実現」だということです。

デジタルツインは、サイバー空間のデジタルな状態と現実のフィジカルな状態が、あたかも双子(ツイン)のようになった世界を意味します。これを活用することにより、BOPの情報をサイバー空間で事前検証し完成度を高めることや、フィジカルの情報をサイバー空間で再検証し改善を図ることなどが可能となり、PDCA(計画・実行・評価・改善)のサイクルを回し、ラインをさらによくすることができるのです。

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デジタルツインについて解説する河田

アイシンではいま、このバーチャルな世界を1工程だけでなく、ライン全体が連動して動くデジタルツインファクトリーにする取り組みを推進しています。これにより、一定の条件が整わないと動作できなくなるインターロックの調整などが、バーチャルなテストで検証できるようになり、実際のラインにフィードバックできるようになります。さらに、実際にラインで動作しているロボットをバーチャル空間に完全に同期するデジタルシャドーの取り組みも推進しています。これは、ロボットが故障した際に何が起こったかを後からデジタル上で検証・確認ができ、改善や対策が迅速に行えるものです。

こうしたアイシンの取り組みについて宮田は、「実は、社内ではこれらを『DX』ではなく『DX(エックスディー)』と呼んでいます。つまり、『X』を先にすることで、何を変えたいのか、どういう姿にしたいのかをまず考え、プロセスを適正化し、それを実現するためにデジタル技術を使うという考え方です。それが、アイシンのものづくりDXとして最も相応しい進め方だと思っています」と明言します。

アイシンはこれからも、人が主役であるものづくりを次世代に継承していくため、このものづくりDXをさらに進化させていきます。

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アイシンの「ものづくりDX」推進メンバー

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