工場をまるごとバーチャル化する「Factory View」って、なんだ?

2023.11.08

工場をまるごとバーチャル化する「Factory View」って、なんだ?

クルマの概念が根本から変わると言われるほどの大変革期を迎えた自動車業界。電動化をはじめとする社会ニーズに迅速に応えるため、アイシンはDX(デジタルトランスフォーメーション)によるものづくりの革新に挑戦しています。その中で、今後の活用拡大が期待されるのが、新たに導入したITツール「Factory View(ファクトリービュー)」。遠隔地からでも自由に工場内を見て回れるのが特徴で、開発スピードと生産性の向上に貢献するとして期待されています。今回はFactory Viewの多彩な機能や取り組みについて、プロジェクト担当者の言葉を交えてお伝えします。

ものづくりDX_FactoryViewプロジェクトメンバー

Factory Viewプロジェクト担当 (左から)本田洋甫、川崎睦之、坂井亮太、松本佳唯

遠隔地の工場をデジタルで閲覧

Factory Viewは画像と点群データを用いて仮想空間上に工場を再現し、まるで「Google ストリートビュー」のようにバーチャルで工場内を閲覧することができるツールです。パソコンからポータルサイトにアクセスすることで国内外の工場内を自由に動きまわり、いつでもどこからでもほぼ全方位で目的の場所や設備を見ることができます。

※Google ストリートビューは、Google LLC の商標または登録商標です。

ものづくりDX_FactoryView画面

プロジェクトを担当する坂井亮太はFactory Viewの嬉しさについてこう話します。

「遠隔地から工場の下見ができることが最大のメリットです。たとえば設備の移設を検討する際に、実は予定の場所に図面に書かれていない消火設備やマンホール、資材置き場があった、なんてことがあります。そうならないよう、以前は何度も現地を確認し、工場への移動に工数がかかっていました。オンライン上での下見が可能になったおかげで、工場間の移動や作業のやり直しの回数を大幅に減らせるようになりました。」

ものづくりDX_FactoryView_03.jpg

工場をまるっとデータ化し、課題を解決

Factory Viewの立ち上げ当初の目的は、従業員の移動負担の軽減でした。生産量の増加による工場の新設や経営統合による再編への対応を急ピッチで進める中、技術者の工場間移動が急激に増加。本来業務に割ける時間が減る中で自動車業界の急激な変化に対応するには、仕事のスピードをさらに上げていかなければなりませんでした。

この課題を一気に解決できる方法はないかと考える中で、プロジェクトを率いる川崎睦之がたどり着いたのが「工場を丸ごとデジタル化」する方法でした。

計測デバイスは、データを短時間で効率よく取得できるドイツのナビビズ社(NavVis)製を採用。デバイスを装着した作業者が工場内を歩きまわることで、画像と点群データを同時に取得します。

ものづくりDX_FactoryView撮影風景

初期の立ち上げに尽力した松本佳唯は「ナビビズ社のシステムを導入したのは日本ではアイシンが初。運用ルールの策定やポータルサイトの制作など、何もかもが手探りでした。」と当時の苦労を振り返ります。現在、松本から役割を受け継いだ本田洋甫は、すでに国内工場19拠点の撮影を完了。「アイシンは工場の数が多く、計測は少人数ではできません。順調に進められるよう、デバイスを使える人材の育成にも力を入れました。」と語ります。

ものづくりの効率化で社会ニーズに応える

従業員の負担軽減を目的にスタートしたFactory Viewですが、環境変化を背景に活用拡大への期待が高まっています。

クルマの電動化が世界的に進展し、世の中のニーズも電動化製品へとシフトする中、今後はより一層、生産ラインの入れ替えや新規導入のサイクルがより短くなることが予想されます。工場のレイアウト変更やラインの新設をいかにスピーディーでできるかが、競争のカギを握るといっても過言ではありません。ものづくりの効率化は、製品開発のスピードアップにもつながり、多様な社会ニーズにいち早くこたえることができます。

Factory Viewの強みは、画像と同時に「点群データ」を取得していることにあります。点群データは空間や物体などを点の集合体として表現したデータで、これをベースに3Dモデルをつくることができます。

FactoryView_05.PNG
パノラマ画像
FactoryView_06.PNG
点群データ

つまりアイシンの工場はまるごと3Dモデルで再現が可能な状態になっていると言えます。これを導入する設備や生産ラインの3Dモデルと組み合わせることで高度なシミュレーションを行うことができます。生産ラインを工場に設置する前に生産性や工場内物流を検証でき、生産準備期間の短縮につながります。

ものづくりDXを進展させる重要な存在に

今後は時間的、コスト的な削減効果が大きい海外工場やグループ企業への展開も視野に入れています。また大規模震災など自然災害による被害からの早期復旧など、BCP対策としての利用も期待できます。

Business Continuity Plan(事業継続計画)

川崎はFactoryViewを工場間の連携にも役立てたいと話します。「Factory Viewには効率化をはじめさまざまな役割が期待できますが、私は工場間の情報共有を助ける小さな『のぞき窓』になってほしいと思っています。アイシンは世界中に多くの工場を持ち、製品も多岐にわたります。しかしその反面で職場が細分化されることを心配しています。似たような課題を抱えている工場を覗いてもらうことで何か気づきを得てもらえるようなツールになっていければ。」

今回紹介した以外にもさまざまな活用方法が考えられているFactory View。今後ますますアイシンのものづくりDXを進展させる重要な要素になっていくと、注目と期待が高まっています。

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