モータースポーツ発の極限AT「GR-DAT」はいかにして生まれたのか? 開発パートナー アイシンの熱き挑戦と、次世代スポーツATへの道【後編】

2026.03.19

モータースポーツ発の極限AT「GR-DAT」はいかにして生まれたのか? 開発パートナー アイシンの熱き挑戦と、次世代スポーツATへの道【後編】

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前編はこちら

プロドライバーの辛口評価が開発者に火をつけた!?

実はこの8ATをベースにモータースポーツでも活用できるように圧倒的な変速スピードとダイレクトフィールにこだわって開発されたのが、GRヤリス/GRカローラに搭載されるGR-DATになります。

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ATの黒子としての役割を捨て自らの走りを主張するGR-DAT。開発陣のこだわりが製品の端々からあふれ出ている

これまでATは滑らかさ(=シフトショック低減)や燃費(=伝達効率アップ)と言った性能を突き詰めるのが常でしたが、GR-DATの開発コンセプトは「MTと同等に戦える AT」です。

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GR-DATについて思いを語る、アイシン 製品開発センター パワートレイン製品本部 T/M技術部 T/M第1設計室の第1グループ主幹の眞鍋正典氏(写真左)。取材では同グループ主任の須賀務氏(写真右)、同要素製品本部 コンポーネント技術部 第2ケーシング設計室で第1グループチームリーダーの澤口慎司氏(写真中央)からもお話を聞けた

つまり、MT並みに意のままに扱えること、さらにより過酷なモータースポーツシーンでもへこたれない耐久・信頼性が強く求められます。

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スポーツ走行では意のままに操れるレスポンスこそが命だ。また、極限状態での連続走行を想定したタフネスさも必要。GR-DATは滑らかさや燃費という従来のATの常識を打破し、競技で勝つための変速機として誕生した

GRヤリスはこれまでの常識にとらわれない手法・技術を用いて開発されてきていることはさまざまなメディアで報告されています。

山本氏: 時には「従来の考えを否定しながら」、「既存品では通用しないので専用開発」と言ったウルトラCもあったと思いますが、GR-DATに関してはどうだったのでしょうか?

アイシン製品開発センター パワートレイン製品本部 T/M技術部 T/M1設計室の第1グループ主幹の眞鍋正典氏はこう話します。

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自信と謙虚さが入り交じる開発陣の表情。アイシンが築いてきた歴史を背負い、次世代のATを語る

眞鍋氏: 実はハードに関しては大きな変更はしていません。耐久・信頼性に関しては当社のこれまでの実績があったので自信がありました。

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基礎となるハードの耐久性には絶対の自信。しかしスポーツ走行に適応させるための課題は多かった

その一方で、「MTと同等」と言う部分に関しては、いろいろな指摘を受けました。開発初期にツルシのDAT搭載の試験車にプロドライバーに乗ってもらいましたが、「変速時間の遅さ」や「ダイレクト感のなさ」、さらには燃費重視の「ワイドなギア比」に対して厳しい指摘を受けました。

意のままに操る! 痛快シフトのメカニズムはどうなっている?

山本氏: そのような厳しい指摘に対して、どのような技術を盛り込んだのでしょうか?

眞鍋氏: 高応答変速、つまりシフトスピードに関しては、電気信号(シフト操作)から油圧制御までのラグを極限までなくす高応答・小型リニアソレノイドの採用と、油圧がかかってからクラッチを切断・締結する際のピストンの移動量(ストローク)を最小限に設計しています。その結果、従来よりも50%以上シフトスピードを短縮した、ATでは世界トップクラスの変速性能を実現しています。

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写真中央に縦に並ぶ円柱形のものが、高応答な小型リニアソレノイドだ。これらによって、従来のATに比べ変速時間を50%以上短縮した俊敏なシフトを生んでいる

山本氏: スポーツドライビングで重要な要素となるダイレクト感に関してはどうでしょうか? これまでもそれをうたうATはありましたが、「ATとしては……」と言うレベルだったような気がしますが。

眞鍋氏: 従来のATでも発進時以外のほとんどの領域でロックアップ(=直結状態)ですが、GR-DATではトルクコンバーターのダンパーを強化することでさらなるロックアップ領域の拡大を可能とし、MT車のようなダイレクトな操作感を実現しています。

山本氏: プロドライバーに指摘されたワイドなギア比に関してはどうでしょうか?

眞鍋氏: MT6速ですが、GR-DAT8速であることを最大限に利用しエンジンのパワーバンドを常に維持できるように、各ギアの比率を極限までクロスさせています。

これにより変速しても回転数が落ち込みにくく連続的な加速が可能になり、シフトアップ時のトルク切れ感が減少。どの速度域からでも鋭いレスポンスで加速できるようになっています。

もちろんクロスレシオ化により変速頻度が増えますが、アイシンの知見を投入し、激しい加減速を繰り返す状況でもギア欠けや摩耗が起きないように強度も最適化されています。

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GR-DATはMTの6速を超える8速を採用。この多段化はパワーバンドを外さない鋭いレスポンスの要となる

山本氏: GR-DATの特徴の一つに「Dレンジでの完全自動変速」があります。これは単なる自動変速の枠を超え、ドライバーの意思を先読みした制御ロジックが盛り込まれていますが、この辺りは?

眞鍋氏: ソフトウエアに関してはトヨタさんが担当していますが、あの複雑かつ緻密な制御ロジックを忠実に再現し、ドライバーの思いを実現するハードに仕上がっていると自負しています。アイシンはこれまで培ってきたハードウエアの技術をさらに進化させ、ソフトウエアの高度化に対応した価値を提供できることが強みです。

熱との闘いにも負けず! 伝統の全数検査再び

ここでは、同社の要素製品本部 コンポーネント技術部 第2ケーシング設計室で第1グループチームリーダーの澤口慎司氏と眞鍋主幹と同じグループの須賀務主任が話します。

山本氏: シフトスピードの短縮やクロスレシオのギア比採用などにより、熱の面でかなり厳しいと想像しますが、その辺りの対策はどのようなことが行われているのでしょうか?

澤口氏: まず摩擦材(クラッチ板)の素材そのものを高耐熱仕様に刷新しています。加えてトランスミッションケースの底面に冷却フィンを新設、走行風を積極的に利用して熱を逃がす構造になっています。さらにATFクーラーを2個搭載することで低速高負荷時でも油温の上昇を抑え込んでいます。

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ATFクーラーを2基搭載することで冷却性能を向上。燃費よりも性能維持に特化したスポーツカー専用設計だ

つまり、燃費よりも熱を逃がして『性能を維持すること』に特化した構造・構成になっている……と言うわけです。

とはいえ、それでも開発中はかなり熱に悩まされたと聞いています。筆者も開発中の試験車に乗る機会が何度かありましたが、それを実感したことも。

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GR-DATは激しいシフトや、走行風が当たりにくいラリー等の極限状況を想定。標準を大幅に上回る過酷な評価パターンを導入し、プロが「壊れるまで追い込む」実走テストを繰り返して弱点を徹底的につぶし、信頼性を研ぎ澄ませている

山本氏: 品質へのこだわりはアイシン全ての製品に共通している所だと思いますが、GR-DATならではの取り組みなどはあるのでしょうか?

須賀氏: 組み立て時のばらつきをより厳格に管理、モータースポーツなど厳しい条件での走行時にも安定した性能を維持できるよう設計しています。

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GR-DATの取材を通して、「自分たちの技術にする」という創業期の熱量は、今もエンジニアたちの胸の中に脈々と流れていると感じる

製造は高度な自動化ラインで行われていますが、検査工程でギアのかみ合わせやベアリングの微細な異音を逃さないように検査員がマイクを通して音を聴き、デジタルデータと照らし合わせて全数検査を行っています。

全数検査と聞き、1972年にアイシンが独自に設計したATと同じ思いがGR-DATにも込められていることを知り、時代が変わってもアイシンイムズは不変だと実感しました。

GR-DATはまだ進化中! 現場で鍛え抜く心でより良い製品に

そんなアイシンはGR-DATの開発が完了した後も「もっといいATづくり」を進めています。その1つが全日本ラリー選手権に自社チーム「AISIN RALLY TEAM with LUCK」としての参戦です。

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テストコースで登場したのはラリー仕様のGRヤリス。ラリー専用のGR-DATを搭載しており、ギア比の変更をしていたり、摩擦材潤滑をレベルアップ仕様にしていたりするが、基本は量産品と同じとのことだ

搭載されるDATはギア比の変更(1速を使わない設定)や細かいアップデートが行われているようですが、基本は量産品と同じモノ。つまり、より厳しい条件でテストを続けることで、次世代スポーツATのヒントを探しているのでしょう。

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アイシン ラリーチーム チーフメカニックの榊原宏晃氏と同乗走行に挑む山本シンヤ氏。その乗り味はいかに?

ちなみにGR-DATはラリーごとに全バラされ劣化や不具合をチェックしているそうです。つまり、自ら造り上げたGR-DATを、今も自ら鍛えている……と言うわけです。

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ラリーカーのステアリングには、DATの電撃的な変速をいかなるハンドル角からでも瞬時に呼び出せるシングルパドルがあった

今回、このマシンの助手席に同乗させてもらいました。本格ラリーカーとしてボディ/サスペンション、操作系などはアップデートされているのは乗れば一目瞭然ですが、トランスミッションの小気味よいシフトアップ/ダウンやダイレクト感あるフィーリングなど、「自分の愛車のGR-DATと同じ!!」と、思わずニンマリ。一般道からコンペティションまでリアルに通用するATであることを改めて実感しました。

今回、GR-DATを取材をして感じたのは、本来ATは黒子であるべきですが、GR-DATは控えめながらも内に秘めた主張を持ったユニットである……と言うことです。

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技術者たちの思いに触れた充実の取材。DATが変えた「ATの常識」。その革新を支えたメンバーと共に、取材のフィナーレを笑顔で飾る

個人的には「ATはつまらない」と言う心のどこかにある思いを払拭させ、自分たちが「乗って楽しい」、「ワクワクできる」製品を造り上げたエンジニアの自信がちょっとあふれ出てしまったのかな……と思っています(笑)。

だからこそ、GRヤリス/GRカローラのGR-DATユーザーは、それを造り上げた技術屋集団がアイシンであることを知っておいてほしいです。

Text:山本シンヤ Photo:土居凌祐]
 編集・制作=くるまのニュース

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