【5分でわかる】塗って発電!?ペロブスカイト型太陽電池とは
2023.10.23
カーボンニュートラル社会の実現に向けて、石油や石炭など従来の化石燃料から「再生可能エネルギー」へのシフトが求められています。
再生可能エネルギーとは自然界に常に存在する枯渇しないエネルギーのことで、CO2など地球温暖化の原因となる温室効果ガスを排出しないのが特徴です。
再生可能エネルギーには風力、水力、太陽光、地熱、バイオマスといったさまざまな種類がありますが、主力のひとつとして期待されているのが「太陽光発電」です。
アイシンは、次世代太陽電池の本命として注目されるペロブスカイト型太陽電池の実用化をめざし、研究開発に取り組んでいます。この記事では、ペロブスカイト型太陽電池の紹介とともに、アイシンの取り組みについてお伝えします。
現在主流の「シリコン型太陽電池」の課題
太陽光発電といえば、住宅等の屋根に設置されている黒っぽい板を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。これは「シリコン型太陽電池」と呼ばれており、発電する層がシリコンでできています。現在普及している太陽電池の95%以上を占めています。
耐久性や光エネルギーを電気に変える変換効率の点で優れていますが、太陽電池パネルが重くて硬いため、強度のある建物の上や地面に設置場所が限定されてしまいます。これまで以上に太陽光発電を増やすには、どこにでも設置できるような新たな太陽電池が必要です。
ペロブスカイト型太陽電池とは
そんなシリコン型太陽電池の課題を克服する次世代太陽電池として、いま最も注目されているのが「ペロブスカイト型太陽電池」です。
ペロブスカイトは結晶構造の一種で、この構造を持つ物質には多様な電気的・磁気的性質があります。シンプルな構造なので、さまざまな物質を合成してつくることができます。
このペロブスカイト構造を持つ物質を材料とする太陽電池をペロブスカイト型太陽電池と呼んでいます。
太陽電池にはさまざまな種類がありますが、光が当たるとマイナスの性質を持つ「電子⊖」とプラスの性質を持つ「正孔⊕」が発生し、それらが移動することで電気を生み出すのが基本的なしくみです。
次世代の太陽電池であるペロブスカイト型太陽電池は、発電する層がペロブスカイト構造を持つ有機物でできており、たった1マイクロメートル(0.001ミリ)ほどの厚みしかありません。とても薄くて軽く、そのうえ柔らかくて曲げられるのが特徴です。
技術革新によりシリコン太陽電池に迫る高効率を実現しており、室内や曇りの日など、薄暗い環境でも発電することができます。
また、材料を基盤に塗る、印刷するといった方法で簡単につくることができるため大量生産が可能になり、製造コストを下げられるというメリットもあります。
ペロブスカイト型太陽電池のある未来
ペロブスカイト型太陽電池のメリットである「軽い」「曲がる」「安い」の特徴を生かせば、これまでシリコン太陽電池が設置できなかった曲面や、建物の壁面や窓、服やモバイル端末といった身の回りの物ほとんどすべてへの設置が可能になり、生活の中のあらゆるもので発電ができるようになります。
再生可能エネルギーへの転換を前進させるだけでなく、わたしたちの暮らしをも変えてしまうほどの可能性があります。
ペロブスカイト型太陽電池の課題
いいこと尽くめのように思えるペロブスカイト型太陽電池ですが、課題もいくつかあります。その1つが耐久性です。シリコン型太陽電池の耐久年数が20年程度なのに対し、ペロブスカイト型太陽電池は酸素や水、紫外線などに弱く、長くて5年程度に留まります。耐久性をいかに高めていくかという点も、今後普及を進める上で必ず超えなくてはならない課題です。
もう1つの課題は鉛です。ペロブスカイト型太陽電池は材料として、微量ですが人体に有害な鉛を含みます。破損や雨などにより鉛が流出し、人体や自然環境に被害が出ることのないよう、現在鉛を使わない素材の開発が急がれています。
アイシンのペロブスカイト型太陽電池開発
さまざまな企業が実用化に向けて研究開発を進めていますが、アイシンもそのうちの1社です。エネルギー関連製品の開発を進める中で、太陽光発電に可能性を見出し、1999年にペロブスカイト型太陽電池の前身となる「色素増感太陽電池」の研究に着手しました。2010年からは東京大学と産学連携での研究を推進しています。
アイシンのペロブスカイト型太陽電池は、素材に酸素や水を通しにくい薄板ガラスを使用し、耐久性を向上させているのが特徴。20年以上の耐久性を目標に、実用化に向けた開発を続けています。
また、1ミクロンほどのペロブスカイト層をいかに均一に塗り広げるかが製品の品質に大きく影響しますが、スプレー塗装の技術を用いることで高品質な製品の安定供給を可能にしています。
有機半導体は、先端研究開発を行うグループ会社「イムラ・ジャパン」とともに合成したオリジナルの材料を使用。材料や工法の改良を重ねて変換効率や耐久性を向上させるとともに、大面積モジュール化、量産に向けて環境を整えています。
生産カーボンニュートラル、モビリティの電動化に貢献
アイシングループは、カーボンニュートラル社会の実現に向けてさまざまな取り組みを推進しています。ペロブスカイト型太陽電池はオンサイトでクリーンなエネルギーを供給できるため、多くの製造工場を持つアイシンにとって非常に重要な技術です。2025年の自社工場での実証実験に向けて開発を進めています。
関連ページ:カーボンニュートラルへの取り組み | 株式会社アイシン 公式企業サイト (aisin.com)
さらに自動車部品を多く手掛ける強みを生かし、モビリティへの展開も視野に入れています。走行距離を延ばして充電の回数を減らし、モビリティの電動化に貢献していきます。
ペロブスカイト型太陽電池が生活に溶け込み、誰もが当たり前にクリーンエネルギーを使える社会。そんな地球にやさしい社会を少しでも早く実現できるように、私たちはこれからも取り組みを続けていきます。