「チョイとソコまで」気軽におでかけ新たな「乗り合い送迎サービス」の仕組みで
だれでも、どこでも楽しめる「まちづくり」
バスなど既存の公共交通の衰退、高齢者運転免許返納の促進など、交通難民の増加が問題になっています。これは過疎地域だけでなく都市の一部でも課題となりつつあり、そこには「新しい交通のしくみづくり」が必要だと言われています。
そんな中で、アイシンがスタートさせた事業、それが「チョイソコ」です。「チョイソコ」とは地域の交通不便を解消し、主に高齢者の外出を促進するオンデマンド型(※)の乗り合い送迎サービスのこと。
アイシンはこれまで自動車部品や、カーナビゲーションなど移動に関わる幅広い商品を手がけてきました。では、なぜオンデマンド型乗り合い送迎サービスに挑戦しているのでしょう?その理由をビジネスプロモーション部部長の加藤博巳に聞きました。
※路線を固定せず、利用者の予約に合わせて運行する交通システムのこと。
Index
- 1. アイシン主体での「CASE」実現を「チョイソコ」で
- 2. 「まち」全体を盛り上げて
継続できるビジネスモデルに! - 3. 送迎だけでなく、さまざまな価値をプラス。
より効率的で、より便利に! - 4. 経験の少ない分野への挑戦
課題や問題点は一つずつ解決 - 5. めざすのは、「日本版MaaS」将来は、このシステムを世界へ
チョイソコ開発 加藤 博巳
/アイシン主体での「CASE」実現を「チョイソコ」で
始動当初からこのプロジェクトに参加する加藤は、こう振り返ります。
「CASE(C:コネクティッド、A:自動運転、S:シェアード/サービス、E:電動化)が話題になりはじめたとき、アイシンでは自動運転(A)や電動化(E)は部品単位で取り組むことが可能でした。しかし『アイシンとして主体性をもって、CASEを実現することはできないか』との考えから、世界トップシェアを誇るカーナビゲーション技術を応用して、コネクティッド(C)やシェアード/サービス(S)を実現する、オンデマンド型交通『チョイソコ』の企画・開発につながったのです」。
「チョイソコ」は会員登録された利用者から電話やインターネットで予約を受け付け、最適な乗り合わせと経路を割り出して目的地まで送迎するサービスとして、2018年から愛知県豊明市内で実験的に運行をスタート。2019年からは本格運行を実施。ほかにもすでに全国20カ所以上(※)の自治体で運行を開始、今後さらに拡大する予定です。
※2021年8月現在
既存のオンデマンド交通は、どこも苦戦
それを「継続」「普及」できるシステムに
利用者のニーズに応じて運行経路や乗車する時間などをフレキシブルに変えることができる「バスとタクシーの中間」のようなオンデマンド型交通は、とくに高齢化が進む地域ではその需要が高く、実際にそれまでも多くの自治体が導入をスタートさせていました。しかしアイシンがマーケティングを進めると、導入した自治体や実証実験の多くは利用者数がなかなか伸びず、1年以内に中止になっていることがわかったのです。
採算が合わず継続できないようでは運営する意味がありません。そこでアイシンでは「チョイソコ」の開発キーワードを「継続性」と「普及」に決定。SDGsの観点からも、サステナビリティ=継続して住みやすい街づくりを実現したいという想いに至りました。
/「まち」全体を盛り上げて
継続できるビジネスモデルに!
それまで継続が難しいとされたオンデマンド型交通ですが、「チョイソコ」はすでに全国20カ所以上で展開されるまでに成長しています。そこにはどんな工夫があったのでしょう。
「チョイソコ」の特長の一つとなっているのが、事業の主体を民間企業とした点です。
これまでのオンデマンド型交通は、ほとんど自治体が運営主体となってきましたが、公平性の観点から極端に需要が少ないところまでサービスを提供したり、収入はわずかな運賃のみになりがちでした。「チョイソコ」では利用者が行きたいと思う施設や店舗などに「エリアスポンサー」となってもらい、スポンサー収入を利用者からの運賃収入に加えて運営費に充てることで、無理なく継続できるビジネスモデルを目指して進めてきました。
また自分たちの価値観を利用者に押し付けるのではなく、実際に利用する高齢者のニーズを現場で徹底的に聞くとともに、実証実験のデータも分析、健康や食事など高齢者に関心の高いイベントなどを企画し、送迎に加えて、健康増進につながる、外出促進の「コト」づくりなども行っています。
「通院や買い物など、必要最低限の移動手段になるだけでなく、外出を楽しめる仕掛けづくりをして『まち全体』を盛り上げていきたい、というのが『チョイソコ』の考え方です」
/送迎だけでなく、さまざまな価値をプラス。
より効率的で、より便利に!
「おはようございます!チョイソコセンターです」。午前8時30分。アイシン本社内にある「チョイソコ」オペレーターセンターの電話が一斉に鳴り出すと、オペレーターの明るい声がセンターのあちこちから響きます。利用者がいかに「チョイソコ」の利用を頼りにしているかがわかる瞬間です。
オペレーターは会員登録されている利用者から申し込みを受けると、カーナビゲーションで培ったノウハウを活用して最適な経路を割り出し、利用者に案内します。さらに過去のビッグデータを利用し、精度の高い到着時刻予測も可能にしています。
アイシンではこうした「チョイソコ」の予約から運行までのさまざまなシステムを、人の移動手段として使うだけでなく、新たな付加サービスにも結びつけたいと考えています。
たとえば、「チョイソコ」の車両に振動を検知するセンサーと路面を撮影するカメラを搭載し、揺れの大きさから道路のひびや穴を判別する「道路維持管理支援サービス『みちログ』」がその一つ。これにはカーナビゲーション開発で培った車の位置を正確に地図に示す技術が活用されており、冠水や降雪のデータ収集のほか、災害時に道路破損を地図にまとめることもできます。「チョイソコ」の送迎走行中にデータ収集できるのもメリットです。
また「チョイソコ」としての送迎走行が空いた時間に、地元の農産物や弁当などを「集荷・宅配」するシステムも考案され、運用もスタート。このほかオペレーターを使った、通話による高齢者の見守りサービスなども検討されはじめています。
さらに次のステップとして、送迎に小規模なコミュニティでの学びや体験を加えた子育て支援システムなど、地域格差や社会課題をなくすサービスの運用なども視野に入れています。
/経験の少ない分野への挑戦
課題や問題点は一つずつ解決
しかし現在に至るまでには、さまざまな難題・課題もありました。
まず大きな課題となったのは、どう地域のニーズをくみ取り、サービスをつくりあげるかという点でした。そのため「チョイソコ」の開発に向けてメンバーが徹底的に地元をまわり、住民の声を聞くことからスタート。その結果、地元の住民や企業から「共感を得られる」サービスが実現しました。
地域のタクシー会社や既存路線をもつバス会社などとの共存も課題の一つでした。これは、「チョイソコ」から車両の運行やオペレーション業務を委託し、協業とすることで問題を解決しています。
現在はさらに「チョイソコ」の普及とより多くのサービスの全国展開、拡大をめざした、異業種の仲間づくりを行いながら、お互いに協力して事業を展開できる「アライアンスパートナー」の獲得にも力を入れています。
またこの仕組みを継続させるためには、常に新たなアイデアやサービスを提供し続けることが重要だと加藤は言います。
「『チョイソコ』の評判が高まり各地で根付けば、それに追随するサービスが出てくるはずです。常に新たなものに挑戦することが大切です」
/めざすのは、「日本版MaaS」
将来は、このシステムを世界へ
いま世界では、出発地から目的地への移動を最適化して提供する「MaaS(Mobility as a service)」への取り組みが進んでいますが、アイシンの「チョイソコ」がめざすのは、日本の超高齢化社会という背景に合った、一歩進んだ考え方。
「アイシンが考えるMaaSのMには、利用者自らが『Move(動く)』という意味も含まれています。移動したい利用者と移動手段をうまくマッチングするだけでなく、動くことをその先の楽しみ「Service」につなげる。こうしてモビリティと楽しさを一体化して考えることで、年齢に関係なく満足度の高い『まちづくり』ができると考えています」と加藤は話します。
「『チョイソコ』は、自社の商品としてアイシンが完結させてしまうのではなく、サービスをユニット化しているのも特長の一つです。私たちは人を移動するためのシステム開発を担いますが、そのほかのサービスはスポンサーとなる民間企業や自治体に担ってもらう。それで皆がウィンウィンになれる関係づくりをめざしているんです。
今後は『チョイソコ』のユニットの仕組みをトータルのサービスとして全国に広め、日本全国どこで暮らしても、不安なく楽しみながら年を重ねられる環境をつくることができれば。そして将来的には世界にもこの仕組みを広げ、『移動で世の中の人々を笑顔にしたい』そんな夢を描いています」
チョイソコの嬉しさ


- 乗り合い送迎サービス「チョイソコ」
- 高齢者を中心とした人々の健康維持・増進を目指した移動支援サービス。2018年7月より愛知県豊明市と共同で実証実験を開始、2019年4月より本格的な運行を開始しています。新たな地域での運用拡大をすすめ、県外ではトヨタの販売店様を運営主体とした運用も行っています。