井上 慎介

井上 慎介

イノベーション

アイシンの微細な水粒子「AIR」プロジェクト“世界初・世界最小の水”がつくる、
すべての人にとって健康で快適な未来

健康で快適な生活をおくるためには、睡眠は非常に大事である。アイシンは長くベッド事業を行っていた経緯もあり、睡眠について研究開発を行ってきた。質の高い睡眠を妨げる喉の乾燥、鼻づまり、肌の乾燥といったトラブルを解消しようということをきっかけに、「微細な水粒子」という技術の研究・開発に取り組みはじめたのが井上慎介だ。

interview

Index

  • 1. 「微細な水粒子」が秘めた大きな可能性
  • 2. “目に見えないもの”を
    証明することの難しさ
  • 3. お客様に早くうれしさを届けるため、
    商品化への強いこだわり
  • 4. 水の無限の可能性を追究し、
    誰もがその恩恵を享受できる未来に向けて

井上 慎介

AIR開発担当 井上 慎介

1/「微細な水粒子」が秘めた大きな可能性

睡眠の質を向上させて人々の健康維持に役立ちたい。そして、誰にとっても安心・安全で快適に暮らせる、より良い世の中づくりに貢献したい。その思いからスタートしたのが水を研究するプロジェクトだった。
もともとアイシンは1966年以来54年に渡ってベッド事業を展開。睡眠について研究してきた背景を持つ。ベッド開発に長く携わり、学会で研究成果を発表してきた井上も当初は乾燥改善による睡眠の質の向上を目標に掲げて開発に着手した。

井上たちのチームが活用したのは住空間の研究で培った調湿技術と自動車やオートバイの排ガス中の不純物処理に使われているカートリッジを組み合わせた技術だった。自動車部品事業で培った技術に住生活・エネルギー関連事業で培った知見を融合させた末、井上たちは空気中の水分子を水粒子に変換して放出する技術を完成させ、放出される水粒子を「AIR(アイル)」と名付けた。
AIRはスチームの600分の1程度という数ナノメートルの極小サイズ。肌の水の通り道より小さいため、必要な場所に確実に届き、留まることで潤いを長時間に渡って持続させる特性を持つことが研究の過程で判明した。バリヤー機能の改善などの肌トラブルの悩み解消などに効果があるほか、医療や農業の分野など、生活の様々な場面において役立つ効果があることもわかった。
「開発当初に想定していた以上の新しい発見が数多くありました。AIRには社会をより良くできる可能性がある。そう信じて研究を進めていくことになりました」と井上は続ける。

微細な水粒子「AIR」とは?

※1 水粒子を生成する加湿技術の比較において 2021年4月12日現在 当社調べ

※ 計測機器:走査式モビリティーパーティクルサイザー(東京ダイレック社)、ナノDMA計測システム(高知工業高等専門学校所有)

※ 当社で計測

美容、医療、衛生、食品など、
生活の様々な場面での活用が
期待される技術

誰にとっても健康で快適な暮らしを実現すべく、喉や肌の乾燥、鼻づまりなどの乾燥改善に取り組むことからスタートしたAIRの開発だが、研究の過程でまだまだ私たちの知らない多くの可能性があり、様々な分野でその効果を活用できそうなことが判明。全ての人々にとって平等な資源である水をより良い未来づくりに役立てるべく、これからも多角的にその可能性を追い求めていく。

2/“目に見えないもの”を
証明することの難しさ

現在でこそ多くの専門家にそのユニークな特性と効果を認められつつあるAIRだが、当初は社外連携先を確保できないなど、開発は困難の連続だった。なにしろ、その時点では数ナノメートルの水粒子を計測する手段さえなく、可能性は誰にとっても未知の領域。井上たちは協力してくれる研究機関を粘り強く探して回り、ようやく連携先と最初の実験を行ったのはプロジェクトがスタートして1年後のことだった。

「世界初の技術である上、目に見えないものなので、信じてもらえないのは当然です。しかしAIRの効果を身をもって知っている私たちはまず研究者の皆さんの信用を得られるよう努めました」

共同研究は実証に基づく科学的根拠を連携先に示し、可能性を理解してもらうところからスタートする。そして、それぞれの研究者が実証実験を行い、効果を確認して、はじめて協力体制を築くことができる。

「ともに研究を進めることで新しい発見が生まれ、さらに良い研究ができるようになり、そのなかで信頼関係が深まっていきました。そういう関係性を築けたこともこの研究の財産だと思います」

3/お客様に早くうれしさを届けるため、
商品化への強いこだわり

AIRは人々の身体に取り込まれるため、安心・安全も重要な目標として掲げ、実証実験を行っている。その結果、提携先クリニックや皮膚科からも安全である確証を得られた。 そうして社内外で実証実験を繰り返すなかで様々な可能性が見えてきた。まず浮かび上がったのが美容領域での活用だった。

「実証実験に協力してくれた皮膚科の医師の方々は一様に驚かれ、興味を持ってくれました。また、治験完了後に来院された患者様全員から『また是非やってみたい』とのコメントもいただきました。その分野のスペシャリストや体験いただいた患者様に画期的な技術であることを理解していただけて、さらに自分たちの技術に自信を持てました」

具体的な方向性が見え、グループの士気がさらに上がっていくなか、井上は一刻も早い商品化を実現することにこだわりを見せた。

「どれだけすごい技術やアイデアでも、使ってもらえなければ意味がありません。商品としてお客様の手に渡り、効果を感じてもらえなければ価値は生まれないのです。そのためにもこの技術を早く商品化し、お客様に効果を体感してもらい、実際の声を聞きたいと考えていました」

3/水の無限の可能性を追究し、
誰もがその恩恵を享受できる
未来に向けて

研究段階では井上たちも自身の肌でAIRの効果を確認した。
現在、企画開発チームは11名。美容に強い関心を持つメンバーも数名開発に携わっている。
「AIRを当てると乾燥して荒れた唇や肌に潤いが戻り、うれしくなりました」。他のメンバーも「顔の半分にだけAIRを当てる実験を行うと、当てた方の肌の調子が整い、ふっくらし、透明感も出ます。自分に自信が生まれ、好きなことに挑戦したい気持ちが高まると思います」とAIRの効果を自身も実感し、効果を熱く語る。
肌が本来の状態に近づけば毎日の生活がさらに楽しくなる。心が豊かになることは、より良い生活への第一歩だ。

また、AIRの技術は医療や農業などの分野の課題解決に役立つことも想定されている。発展途上国でのワクチン投与など、針を使わない衛生的な治療を可能とするほか、災害時などの「非常用給水システム」としての活用も井上たちは期待している。
井上たちのチームの共通目標は「誰もが心身ともに健康で快適に暮らせる明るい社会への貢献」。井上はその思いを胸に、さらにこの技術を発展させていくことに意欲を燃やしている。

「AIRの技術はワクチンから人々を解放することによって世界のどこでも安全に生活できるようにしたり、消費期限を気にせず、いつまでも美味しく食べられるといったことなど、様々なことに活用できると思います。無限の可能性を秘めた水をさらに追求し、美容、医療、衛生、食品など、様々な領域で新たな可能性にチャレンジしていきたい」

井上は将来に向けての想いをこう語る。
「AIRは誰もがどこにいてもその恩恵を享受できる技術です。身近に存在している水を利用するこの技術で、より良い未来づくりに貢献したい。近い将来想定されるそんな社会がAIRによるSDGs実現の究極の姿だと考えています」
井上たちは21年度中の商品化を目指してさらに開発に力を注いでいく。

微細な水粒子「AIR」
大きさ数ナノメートル(通常の水蒸気の1/600程度の大きさ)の世界最小の水粒子を用いた浸透保湿技術

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