めざせ、誰もが認めるNo.1カーナビアプリ!進化を続ける「moviLink(モビリンク)」の挑戦
2024.09.06

今や自動車の運転に欠かせないカーナビゲーションシステム(以下カーナビ)。アイシンは今のカーナビの原型となる、ボイスナビゲーションシステムを世界で初めて開発し、以降時代に先駆けたカーナビを次々と開発。車載ナビでは世界トップクラスの製品シェアを獲得しています。そんなカーナビ業界に大きな変化をもたらしたのがスマートフォンの普及やカーナビアプリの登場でした。それに伴いアイシンでも車載ナビの開発メーカーとしては初となるスマートフォンアプリ「NAVIelite (ナビエリート)」(2011〜2022)などをリリースしてきました。
そんな中、ユーザーの利便性を第一に「よりタイムリーに高品質のサービスを提供していきたい」という考えのもと、新たなカーナビアプリの開発チームが立ち上がります。今回は、そのプロジェクトメンバーに開発の裏側を聞いてみました。
タイトな開発期間が、逆に開発チームのモチベーションに
プロジェクトの立ち上げ当初から開発リーダーを務めている田邊は当時を振り返ります。
「トヨタ自動車からスマホ向けカーナビアプリ立ち上げの声掛けがあり、このプロジェクトチームが立ち上がったのは2020年9月でした。リリースの予定日が半年後というタイトなスケジュールの中、『開発プロセスの超短期化』や『グロースハック※の導入・分析』『開発運用の効率化』がミッションとして掲げられました。車載ナビの開発が通常2~3年ほどかかることを考えると、決して余裕のある開発期間ではありません。それでもチーム内は『この半年でどこまでやれる?』『チャレンジしてみよう』というポジティブな雰囲気だったんです。特に『アプリの仕様や実装する機能について、企画から携われるのはチャンス』と考える人は多かったですね」
※ユーザーの行動(操作)や反応をもとにサービスや製品の改善につなげる手法。
車載ナビが完成度の高いものをつくってリリースされるのに対して、スマートフォンアプリの最大のメリットは、リリース後にもタイムリーにプログラムを更新できることです。リリース後でも小さなアイデアをどんどん取り込みながら実現していくことが可能という、一人ひとりのアイデアが活かされやすい開発環境も、エンジニアたちのモチベーションにつながりました。
車載ナビのクオリティを、そのままカーナビアプリへ
実はアイシンにとってこのプロジェクトには、車載ナビのリーディングカンパニーとしての実績がある中で、「IT企業が開発したカーナビアプリには、ナビの性能面や使い勝手をはじめとする機能面では負けたくない」というプライドもありました。リリースまでの限られた時間の中、そのクオリティをどこまで追求するかについては、チームの中でもさまざまな意見が出ました。
「その中でも私たちが特にこだわったのが、車載ナビと同じクオリティの案内ルートを用いて適切な案内カーナビアプリでも提供することでした。見栄えや操作感など、スマートフォンアプリに必要とされる品質を追求しつつも、しっかりクルマの世界観を出すというのは、車載ナビのメーカーとしては譲れない部分の一つです。ユーザーがスムーズに目的地にたどり着けるのか、実際の道を何度も走り込んだりなど、試行錯誤を重ねました。」田邊は当時の様子を語ります。
「ワンチーム」で、難局を乗り切る
さらにこの開発期間中には、想定外の事態も起こりました。その時の様子をエンジニアの松本は次のように話します。
「開発が始まってすぐにApple社の仕様変更があり、それまで利用していたiOSの開発システムが使えなくなるという事態が発生し、開発が中断しかけました。原因究明までに1週間を費やしたあげく、事態の解決にはそれまでの古いシステムを捨てて、新しいシステムを構築する必要がありました。私たちにとっては初めての挑戦でしたので、不安がなかったといえば嘘になります。その中でも、若手が中心となり新しいシステムと運用プロセスを構築できたのは、大きな成功体験だと感じています」
その後もさまざまな困難があったものの、スピードを落とすことなく開発を進めます。それが出来た理由を田邊は次のように語ります。「お客様であるトヨタ自動車とは『ワンチーム』で開発に取り組んでいます。プロトタイプができたらすぐに共有し、お互いにアイデアを出し合いました。場合によってはその場で修正を加えるなど、スピード感のある開発を続けることで、当初の予定通りのスケジュールでアプリをリリースすることができました」
そして、プロジェクト発足から6カ月後の2021年3月にトヨタ自動車から満を持してリリースされたのが、カーナビアプリ「moviLink(モビリンク)」です。
その代表的な特徴をいくつか挙げてみます。まずは先ほども挙げた、車載ナビと同じアルゴリズムを用いることで自動車が走りやすい「ルートのクオリティの高さ」。次に、ランドマークを立体化するなどの「地図の見やすさ」。そして、検索画面をはじめとした「操作性の高さ」。これらには、長年車載ナビの開発で培ってきたノウハウが詰まっています。
「正直な話、リリース時点でアプリとしてのクオリティは、ぎりぎり及第点くらいだったと思います。その代わり、その後のアップデートに力を入れることで、段々と理想のカーナビに近づけていくことができました」と田邊は語ります。
実際、2021年3月のリリース以来、moviLinkはこれまで毎月1~2回のペースで機能や画面の改善などを行っています。リリースからの約3年でアップデートの回数は46回。この間の更新では、Apple CarPlay やAndroid Autoに対応させ車載器との親和性を向上させたり、駐車場から最終目的地までの徒歩での移動を支援する徒歩ナビも実装しました。さらに2024年8月には、2度目の大型アップデートも実施。この大型アップデートで特に力を入れたのが、ルート検索画面をはじめとした「見た目」や「使いやすさ」の改善。担当しているのは、プロジェクトに途中参加した塚本です。
「せっかく車載ナビと同等の品質があるカーナビアプリでも、地図の見栄えや操作性で使いづらいと思われるのはもったいないと考え、これまでにもより見やすくて使いやすい画面にするために、細かな修正を何度も行ってきました。リリースから3年が経ち、より多くの方に『使いやすい』と思っていただけているはずです」。さらに田邊も、「最初のリリース以来、SNSや公式サイトのご意見BOXへの投稿、ストアのレビューなどに寄せられるユーザーの声には、賛否含めてすべての意見に目を通し、チームで改善に活かしてきました。今もユーザーからの意見も取り入れながら、さらなるバージョンアップに取り組んでいます」と続けます。そんな開発者たちのこだわりも、moviLinkが「ユーザーの声でより使いやすく育つナビアプリ」とうたっている所以です。
カーナビアプリの知見で未来を創造する
スマートフォンのアプリストアのカーナビを含めた地図アプリのカテゴリーには多くのアプリがエントリーされており、業界では後発といえるmoviLinkは、デフォルトでインストールされているアプリに比べると、どうしても知名度は低いと言わざるを得ません。しかし、実際に利用したユーザーからは「トヨタの純正ナビと同等の機能が、そのままスマホで使える」「案内の音声が聞き取りやすい」など、多くの好意的な感想が寄せられています。そして地道なアップデートの甲斐もあり、2024年5月17日にはついにApp Storeの同カテゴリーでダウンロード数1位を獲得。ストア内での評価レートもリリース時から大幅に改善し、今では5点満点中の4点台の高評価(2024年7月末時点)をいただくなど、確実にユーザーの心を掴んでいます。
進化を続けるモバイルを用いた移動の未来についても聞きました。
「現時点でカーナビアプリは、あくまでもスマートフォンを使ったコンシューマ向けのサービスの一つでしかありません。しかし、カーナビアプリには自動車の中と外の世界の架け橋となる役割があり、それは『人と車と街と社会がスマートにつながるコネクティッドな世界の実現』にもつながります。今後の開発では、これまでアイシンが培ってきたコネクティッド技術や知見をさらに取り入れたり、最新の技術と融合させることで、物や人の流れの効率化といった社会課題の解決などにも貢献していきたいと考えています」(田邊)
これまでにも移動を感動に変えるための、さまざまな技術やサービスを世の中に送り出してきたアイシン。moviLinkの挑戦も、まだまだ始まったばかりです。