アイシンの水素を活用した技術開発

~未来地球に美しさを運び続ける挑戦~

2023.03.15

アイシンの水素を活用した技術開発

みなさんは宇宙で一番多い元素は何か知っていますか?答えは、原子番号1の「水素」です。

今、水素をエネルギーとして活用する取り組みが、世界的に注目を集めています。実は、アイシンは30年以上も前から、いち早く水素エネルギーに着目し、水素を燃料に発電する燃料電池の開発に取り組んできました。今回は、地球規模の課題となっているカーボンニュートラル社会の実現のカギを握る水素活用について、知っておきたい基礎知識と、アイシンの挑戦を紹介します。

なぜ水素が注目されているのか?

2021年夏に開催された東京五輪・パラリンピックでは、大会史上初めて、水素を燃料とする聖火が灯りました。大会車両のほか選手村の照明や空調用にも水素を燃料に発電する燃料電池が使われ、国を挙げて水素社会をめざすというメッセージを世界に発信したのです。トヨタ自動車の燃料電池車「MIRAI」や家庭用燃料電池などの登場により、水素は私たちの身近な存在になってきています。

電気は大量に貯めておくのが難しいことから、つくる量とつかう量のバランスが大切なのですが、太陽光や風力を使った自然エネルギーは天候などに左右され、コントロールが難しい。その点、水素は地球上のさまざまなものから作ることができます。水素があれば空気中の酸素との化学反応によって電気をつくる燃料電池(FC※1)で、いつでも電気を取り出すことができます。
※1:Fuel Cellの略

燃料電池(FC)とは、水素と酸素を化学反応させて電気エネルギーとして取り出す装置です。水素ガスを燃料電池に送ると、マイナス極で水素が反応して水素イオンと電子に分離します。水素イオンは電解質(固体高分子膜という特殊なフィルム)を通ってプラス極に移動し、電子は電気エネルギーとして取り出されてプラス極に流れます。プラス極では、外部供給の酸素がこの電子を受け取って酸素イオンとなり、水素イオンと結びついて水になります。

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電気を取り出して、利用後に排出されるのは水だけです。二酸化炭素や環境汚染物質を出さないことから、水素は「究極のエネルギー源」として、カーボンニュートラル実現への大きな貢献が期待されています。

アイシンと水素~2畳半のガレージで開発をスタート

アイシンの水素に関わる製品開発の歴史は、30年以上前に遡ります。当時、石油や天然ガスなどの化石燃料は枯渇の恐れと、地球温暖化を促進させる二酸化炭素の排出が問題となっていました。私たちは「化石燃料の枯渇が深刻化する100年後には水素社会が出現する」と考え、1991年に自動車用燃料電池の研究開発をスタート。研究者3人、場所は2畳半のガレージ。設備や開発費用もままならない中、燃料電池をほとんどゼロから学び、電解質(固体高分子膜)や改質器の開発に心血を注いだのです。

アイシンは、電池スタックや燃料改質器など主要部品の開発を続け、藤岡試験場(愛知県豊田市)に新実験棟を建設。1998年には悲願のメタノール改質式燃料電池自動車を自社開発し、テスト走行を実施するまでになりました。

1999年頃から、トヨタグループを挙げての燃料電池開発が本格化。2002年トヨタ自動車から限定販売された燃料電池車(FCEV※2)にはアイシンで開発した、水素と空気の供給・排気系統用の制御バルブや加湿器等、多くの補機部品も搭載されました。
※2:フューエルセル(燃料電池)エレクトリック車、いわゆる水素自動車「Fuel Cell Eletreic Vehicle」の略

燃料電池開発の初期メンバーの一人であり、FCスタックや補器部品の開発を担当してきた技術者の梶尾克宏は、「アイシンは水素社会の到来を見越し、製品ありきでなく、技術ありきでいち早く燃料電池開発に取り組んだことが、トヨタ自動車のFCEVに貢献できたと思います。2014年に世界初の量産FCEVとして「MIRAI」が華々しく発表された際には、「MIRAI」に群がる群衆の中、これまでの記憶が思い起こされ感極まったのを覚えています」と振り返ります。

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FCEVにおけるアイシン製品

アイシンはFCEVの重要部品である「気液分離器」と「FCスタックケース」を供給しています。

気液分離器は、水素と酸素の化学反応で生成される水粒子を水素循環ガスから分離し、回収する役割を担っており、分離後の水素は発電用として再循環されます。気液分離機内部で循環ガスを渦状に流し、水粒子の慣性力を利用して回収する仕組みで、分離率90%以上を達成しています。回収した水はアイシン独自の排出弁の開閉により、循環系から外部に排出することができます。

また、FCスタックケースは、数百セルにも及ぶFCセルの積層体を5トン以上もの荷重で高精度に締結する部品で、1つ1つのFCセルの発電性能を確保する為には欠かせない重要な部品です。アイシンの最も得意とする技術の一つである大型アルミ鋳物を接合する技術を生かし、高い強度と小型化を実現。車両への搭載性向上とFCシステムの普及に貢献しています。

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トヨタMIRAIに採用された気液分離器(左)とスタックケース(右)
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トヨタFCモジュールに採用された気液分離器(左)
豊田自動織機FCフォークリフトに採用された気液分離器(右)

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トヨタMIRAI(第1世代)/SORAに採用されたエアバルブモジュール(左)
トヨタMIRAI(第1世代)/豊田自動織機FCフォークリフト(第1世代)/SORAに採用された排気排水弁(中央)
豊田自動織機FCフォークリフト(第1世代)に採用されたエア調圧弁(右)

トヨタ自動車のFCEV開発の一翼を担う一方、自動車用燃料電池の技術を応用し、家庭用燃料電池システムの開発を2000年に着手。2012年に「エネファーム」として製品化。

現在はFCEVの部品を供給しながら、システム製品として家庭用燃料電池コージェネレーションシステムを展開しています。今後もアイシンは将来の水素社会に向けて幅広く技術開発を加速させていきます。

自動車用の技術を家庭用燃料電池に応用

「エネファーム」は、都市ガスなどから水素を取り出して電気をつくるとともに、発電時の排熱を給湯や暖房に利用する家庭用燃料電池コージェネレーションシステムで、次世代環境対応型エネルギー源として注目されています。

最新の「エネファーム typeS 2020モデル」は、旧モデル比で設置面積を約20%縮小し、世界最高レベル※3の発電効率55%を実現しています。
※3:定格出力1kW以下の家庭用燃料電池コージェネレーションシステムにおいて(2022年2月21日現在、アイシン調べ)

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エネファームについて、詳しくはこちらをご覧ください
/jp/product/energy/cogene/

脱炭素・循環型社会の実現にはインフラ整備も不可欠

アイシンは製品開発だけでなく、インフラ整備を通じたクリーンエネルギーの活用促進にも取り組んでいます。2021年3月には、グループ会社の光南工業が「光南水素ステーション刈谷」(愛知県刈谷市)を開所しました。

また、従業員用通勤バスとして、燃料電池バス「SORA」を運行しています。SORAは、走行時にCO²や環境負荷物質を排出しない優れた環境性能と、騒音や振動が少ない快適な乗り心地が特長です。

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光南水素ステーション刈谷(左)と、従業員通勤用の燃料電池バス「SORA(右)

イノベーションで未来を良くする

アイシンには、常にイノベーションに挑んできた歴史があります。それがバックボーンとなり、ハイブリッド車や電気自動車、燃料電池車まで多様な環境対応車の選択肢に対応できる技術を蓄積してきました。並々ならぬ品質へのこだわりと高品質な製品を安定生産できる高度なものづくり力も強みです。

日本は、水素を社会実装するための取り組みを世界に先駆けて推進しています。アイシンはカーボンニュートラル社会の実現に貢献するため、さらに技術力を磨き、グループの力を結集して地球の未来を良くしていくための課題を乗り越えていきます。

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