田中 優

田中 優

イノベーション

アイシンの自動バレー駐車プロジェクト人が介在しない
自動駐車の「究極のかたち」
自動バレー駐車

ミラーやモニターを確認しながら、右へ左へと的確にハンドルを操作しなければならない車の駐車を、「苦手」「面倒」と感じるドライバーは多い。また、自動車関連事故の約3割が駐車場内で発生(※)していることからも、アイシンではドライバーの負担を軽減する自動駐車技術の開発を早くから進めてきた。
だがここで紹介する「自動バレー駐車」は、既存の駐車支援システムの技術をはるかに上回る、人が立ち去った後に完全な自動運転で車を駐車させるというアイシンが考える自動駐車の「究極のかたち」だ。
「事故の低減はもちろん、住みやすい都市の実現のために自動駐車技術を活かすことはできないか…」。この想いのもとに開発を進めるプロジェクトチームのリーダー、田中優に話を聞いた。


※日本損害保険協会東北支部調べ

interview

Index

  • 1. スマートフォンの操作だけで、車を駐車。
    そこには想像以上のメリットが
  • 2. 二つの問題点。駐車場という過酷な環境と
    他業者との協働という難しさ
  • 3. めざすのは、「自動バレー駐車なら、アイシン」
  • 4. 自動バレー駐車の普及でより住みやすい街へ

田中 優

自動バレー駐車開発 田中 優

1/スマートフォンの操作だけで、
車を駐車。
そこには想像以上のメリットが

アイシンでは2003年に世界で初めてハンドル操作を自動で行う駐車支援システム「インテリジェントパーキングアシスト」を開発するなど、いち早く自動運転技術の開発を進めてきた。各方面から注目されたこの技術はその後、ハンドルだけでなくアクセルやブレーキ、シフトまでも自動で操作できるより使いやすいものに進化し各車に採用されている。
しかし、ここで紹介する「自動バレー駐車」は、さらに考え方を進めた完全な自動駐車の技術だ。
「バレー駐車」自体は海外で多く見られる駐車サービスの一つで、ホテルなど施設の入り口周辺でキーを預けると、スタッフが駐車場への出入庫をドライバーに代わってしてくれるというものだ。
これに対して「自動バレー駐車」は、人を介していた部分をすべて自動で行う。たとえばドライバーが施設入り口の降車エリアで車を降り、スマートフォンで操作すれば、車は駐車スペースまで自動走行し、駐車を完了する。出庫時もスマートフォンの操作のみで走行し、ドライバーを迎えに来てくれるというのだ。

開発の中心となっている田中は、自動バレー駐車によってドライバーや同乗者にもたらされるメリットを次のように分析する。
「駐車場は柱や壁があって見通しが悪い上に歩行者と自動車が接近しやすく、事故が起こりやすい場所となっていました。自動バレー駐車されれば、駐車スペースを無駄に探しまわる必要もなくなる上、歩行者と自動車を分離することで『究極の安全』も実現できます。
さらに駐車場までが遠い施設などでは、徒歩移動などの負担を軽減することもできます」
ドライバー側だけでなく、駐車場を管理する施設や企業に対するメリットも大きい。「無人での駐車なら1台ずつの駐車間隔を小さくすることができ、従来の100台分のスペースに120台が駐車可能です。これによって空いたスペースを有効に利用することができますし、大型駐車場での誘導・整理にかかる人的なコストを低減することもできます。自動バレー駐車が生み出すメリットの可能性は幅広いと考えています」

アイシンが自動バレー駐車のプロジェクトをスタートしたのは2015年。いま、その取り組みは実証実験を終えたところまで進んでいる。

実証実験動画

コンパクトシティに向けた、
まちづくり改編にも自動駐車の技術を

人口減少や高齢化に伴い、都市構造をまとめてコンパクトシティに改編しようという動きがある。これには、現在、駐車場に使用されている面積の2割~3割を縮小する必要があると考えられている。人のための空間を拡大することは、暮らしの質の向上にもつながる。
アイシンではさまざまな業種の企業と駐車場に関わる問題点のディスカッションを繰り返してきたが、そこで見えてきたのが(1)未使用の駐車場が生む「空間」の無駄、(2)空きの駐車場を探して走り回る「時間」の無駄、(3)駐車場の誘導や整理にかかる余剰な「人的」コストなどの問題だった。


未来の自動車社会に求められる駐車方法やシステムはどんなものなのか。そしてどうすれば、「住み続けられるまちづくり」につなげられるのか。
自動バレー駐車のプロジェクト発足には、こうした課題解決に向けた想いも込められている。

自動駐車への想いを語る田中さん(左)と丹羽さん(右)

2/二つの問題点。
駐車場という過酷な環境と
他業者との協働という難しさ

どんなかたちの自動駐車が、誰もが暮らしやすく、住み続けられるまちづくりにつながっていくのか。田中の所属するプロジェクトチームには、子育て中のメンバーなども在籍し、あらゆる立場や世代の視点から見た開発を進めている。駐車場インフラの開発を進める丹羽幸紀子もその一人だ。
「駐車場で子どもを降車させる場合、降車後の安全を確保することが本当に大変です。でもこれは、育児を通じて初めてわかったこと。それと同時に、高齢者や介助が必要な方などそれぞれに、大変な部分が違うということにも気づきました。こうした経験を、いま携わっている開発に活かしたいですね」
議論や検証を重ね、自動バレー駐車の開発イメージは少しずつ固まっていったが、そこにはいくつかの問題点も浮上してきた。

その一つが、駐車場という独特の環境だ。自動運転には地図情報が必要になるが、地下や立体駐車場ではGPSを受信できないだけでなく、駐車場の多くには柱や壁などの障害物があり、さらに通路も狭い。
田中は「問題点をすべて車側の技術で解決しようとすると、想像以上に多くのセンサーを車載しなければならず、車も高額になってしまいます。そこでアイシンの考える自動バレー駐車では、駐車場側に設置したマーカー(目印)などのインフラと連携することで自動走行を実現させ、駐車場という過酷な環境下での自動駐車を実現化に近づけました」と話す。
車の誘導は、飛行機の離発着のように駐車場側が管制塔の役割を担い、各車に通行するルートや、割り当てた駐車スペースを指示するイメージだ。
車側には、アイシンが従来からの自動駐車の開発で培ってきた、画像認識や車両制御、センシングの技術が駆使された。とくに狭いスペースへの駐車など、低速で緻密な車両コントロールは、アイシンならではの技術によって実現されている。

そしてもう一つの問題点に、他業者との協働の難しさがあった。駐車場インフラの開発においては現在、駐車場設備メーカーと共同で開発が進められているが、「私たちは車の技術については詳しくても、駐車場やそれを取り巻く情報については未知の点も多く、何を求められているかしっかり理解する必要がありました」と丹羽は話す。

「異業種へのインタビューや現地確認を繰り返して問題点を模索しながら、自動バレー駐車の理想のかたちづくりに時間をかけてきました。
車単体ではなく、駐車場と両者で自動バレー駐車の普及を図っていくことがポイントとなるので、駐車場はもちろん、カーシェア、配送業、ショッピングセンター、マンションなどさまざまな事業社の方とも議論を繰り返しています」
プロジェクトチームのメンバーは、開発以外にこうした地道な活動も行っている。

3/めざすのは、
「自動バレー駐車なら、アイシン」

最先端の技術を駆使して進めるアイシンの自動バレー駐車の開発だが、各国や各メーカーがし烈な競争を繰り広げているのも事実だ。そんな中でアイシンがめざすのは、国際標準化を戦略に組み込んだ技術開発だ。その難しさを田中はこう話す。
「各メーカーで競争しながら開発を進めていますが、各社それぞれが独自の技術をつくっても世の中に普及しづらいものになってしまいます。自動バレー駐車の仕組みを国際標準としてまとめ、普及を推し進める活動も重要です。アイシンは、そのためにISO規格の策定にも参画しています。こうして国際協調を図りながら、アイシンの緻密なコントロール技術などを活かし、便利で導入しやすい自動バレー駐車を展開したいですね。
競争と協調の両面から、私たちの開発する自動バレー駐車のシステムを、世界中の都市の持続的な発展につなげたい。そんな想いをもちながら日々の開発を進めています」

3/自動バレー駐車の普及で
より住みやすい街へ

このプロジェクトにおける今後の最大の課題は、いかにその導入事例を増やしていくかだと田中は言う。
「自動バレー駐車は、社会とつながって初めてかたちとなるものだけに、モデルケースを作りビジネスとして成立する姿を世の中に示していくことが一番の課題だと思っています。
自動バレー駐車が実現すれば、駐車場内での事故低減はもちろん、大規模な商業施設や空港、病院、マンションなどにおける移動負担を軽減でき、高齢者や車いすの方によりやさしい環境づくりが可能になると考えます」
また、配送業や工場内輸送などの事業に自動バレー駐車のシステムを応用することで、人手不足解消にもつなげられるとも言い、未来に広がる自動駐車の可能性を語る田中の口調からは、強い意志が感じられた。
「生みの苦しみはありますが、さまざまなニーズに応えられたとき、そしてステップアップを実感できたとき、何よりのやりがいを感じます」

かつて夢のように思えた自動駐車の実現はすでに手の届くところまで進んでいる。アイシンでは今後、自動バレー駐車のモデルケースとして施設駐車場などへの導入を予定している。

自動バレー駐車
施設のエントランス近くの降車エリアで 車を降りて、スマホで操作すれば、あとは車両が完全無人で駐車場内を走行し、自動で駐車してくれるシステム。

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