サプライチェーン全体での競争力強化をめざす
~サプライヤーに寄り添い、ともに成長し続けるために~
2025.06.30

アイシンは、世界各国のお客様に数多くの製品を提供しています。様々なお客様のニーズに応え、魅力ある製品を最適な品質、タイミングで供給していくためにはサプライヤーの力が必要不可欠です。そんなアイシンのサプライヤーは、日本国内の部品メーカーだけで約750社、海外や部品以外の会社も含めるとその数は約4500社にものぼります。
そんなサプライチェーンを取り巻く環境は、クルマの電動化、知能化に伴う製品の様変わり、海外競合メーカーの競争力の向上、少子高齢化による人手不足、カーボンニュートラル実現要求の高まりなど激しい変化の渦中にあります。こうした環境変化に対応し、アイシンとサプライヤーがともに成長し続けるために、「サプライチェーン全体での競争力強化」はより一層重要性を増しています。
今回は、グループ調達本部本部長の大島振一郎をはじめとする調達担当者に話を聞きました。
“待つ”から“寄り添う”へ ― 成長を促す関係をめざして
「環境変化が激しい中で、海外メーカーにも負けない競争力をつけるためには、サプライチェーン全体で変化にスピーディかつ柔軟に対応できるようになることが重要です。そのために、アイシンはサプライヤーの皆さまとWin-Winで、サプライヤー自身が持続可能な成長を実現できるような共存共栄の関係性を築いていく必要があります。何百社のサプライヤーと取り引きする中で、なかなか自分から環境変化に由来する困り事を言い出せない方もいるのが現状です。我々は待ちの姿勢ではなく、こちらから出向いて、サプライヤーの皆さまに寄り添わなければいけないと考えています。」


自動車業界に求められている環境変化への対応は、当然サプライヤーにも求められています。例えば、電動化に伴う新しい材料や工法の検討などといったものづくりに直結するものから、カーボンニュートラルの実現に向けた活動など、対応は多岐に渡るが、これらすべてに自助努力のみで柔軟に対応できるサプライヤーは多くありません。
アイシンは調達活動の基本的な考えとして、長期安定取引を前提とした「サプライヤーとの共存共栄」「オープンでフェアな取引」の2つの軸を掲げ、サプライヤーとの関係構築と相互の発展、その先にバリューチェーン全体での付加価値拡大とサプライチェーン全体で持続可能な社会の実現を見据えています。
現地・現物・現実の考えのもと、実際にサプライヤー1社1社に出向き、丁寧なコミュニケーションや相互研鑽の活動を進めています。その取り組みは幅広く、今回は5つの事例を紹介します。
ものづくりにおける品質安定化のための基盤整備
サプライヤーの中には、人手不足による技能伝承の難しさや、安定した高品質なものづくりを大きな課題と感じている会社がいます。具体的には、組織内の中間層の欠員、外国人労働者や、新しい世代の従業員の入社による人の入れ替えなどによって、これまで担保できていたものづくりの品質が保てなくなっているのです。
「サプライヤーの中には、作業を教えられる人がおらず、作業者がカン・コツに頼って作業をしていることがあります。しかし、検査工程で流出防止をしているものの、製造工程内で品質が担保されることが本質です。私たちは、誰もが守れる・分かり易い標準作りの方法や正常・異常がわかる職場環境づくりと定期的な訓練といった品質の土台となることをサプライヤーの現場に伺い、一緒に考え、提案させていただいています。そして、2025年は55社のサプライヤーと一緒になって、品質の土台作り強化の活動を進めていきたいと思います。」と兵後は言います。
改善力を引き出す伴走 ― サプライヤーの自立と成長
サプライヤーのものづくりにおける競争力強化を目的に、アイシンはサプライヤーの人材育成と原価低減活動の両軸でサポートをしています。ものづくりの企業にとって、改善力は成長のためには必要不可欠な力です。この取り組みに向けた想いを苅谷は次のように語りました。
「アイシンはあくまでサプライヤーの背中を支える役割です。サプライヤーの生産性改善など困り事に対し、アイシンが現場に入り、すべての問題に答えを出して、サプライヤーに提供することは最も容易であり 、早い方策と言えます。ですが、それではサプライヤー自身にノウハウが伝承されず、持続的な成長に繋がりません。我々は、サプライヤーの様々な困り事や、原価低減、出来高改善、在庫低減、労務費などのサプライヤーを苦しめるすべてのテーマについて、寄り添って、一緒に解決への道のりを考え支えます 。そして活動を通じ、サプライヤーの中でキーマンが育成され、自身で改善ができるようになるまで見守っていくことで、持続的な成長を促していきたいのです。」
ものづくりの悩みに応える現場支援の最前線
ものづくりにおいて、品質が第一であることは言うまでもなく、アイシンもサプライヤーも高い意識を持って向き合っています。しかし一方で、過剰品質によってサプライヤーに想定以上のコストや廃棄を生んでしまい、サプライヤーの負担を大きくしているという事例も数多く起こっています。過剰品質とは、品質・性能面では問題の無い部分で、図面に過度なスペックが記載されていたり、記載がない項目でも、不安や忖度で品質不具合として廃棄したりしていることをいい、アイシンではこれを救い出し、採用していく品質・性能基準適正化特別活動「Smart Standard Activity(SSA)」※に取り組んでいます。廣村は、この活動の必要性をこう語っています。
「世の中を含め、品質を見る目は年々厳しさを増しています。こうした背景もあり、実は私たちの知らないところで過剰品質が起きています。アイシンの工場やサプライヤーからしたら、1つの品質問題も出すわけにはいかないので、そうなるのは考えてみてば当然ですよね。しかし、本当にしなければいけないことは、前後工程や製品全体をしっかりと理解した上で機能・性能面で本当に問題になるものなのか見極めることです。時にはお客様も巻き込んで、関係者と一緒にサプライヤーを訪問し、現地・現物・現実で確認し、問題ないか判断します。そうすることで、サプライヤーの負担を減らし、競争力の強化に繋げられるはずです。」
※ 本活動は、2017年末からトヨタ自動車が始めている活動。アイシンは、これを自社のサプライヤーに対して活動を進めている。
“見える”ことで守れる ― 有事対応を支えるサプライチェーンの可視化
様々なリスクに対する、サプライチェーンでの備えも重要な取り組みテーマです。近年では、自然災害、地政学的な問題から、サーバー攻撃など、いつ・どこで・どんなリスクが発生するか誰にも予測できません。そして数多くの製品を取り扱うアイシンのサプライチェーンは1次、2次、3次、4次まで繋がっているため、リスク発生時に即座に状況と影響を把握することが極めて困難です。アイシンでは、有事の際に影響把握から対策検討までをスムーズにするために、2012年から専用管理システムを構築し“サプライチェーンの見える化”に取り組んでいます。2025年度には、グローバルに活用できるシステムにバージョンアップし、稼働させる予定です。
苅谷は次のように想いを語りました。「安定供給についても、サプライヤーと一緒に取り組んできたいです。自動車関係のサプライチェーンは広範囲に繋がっています。何か問題が生じた際に、その問題がどう影響するのか、スピーディに把握する“初動”が一番重要と考えています。そして、影響を特定できれば、関係者の安否確認や、物資等お困り事への支援、部品供給の代替案の提案等の復旧活動を、関係部署と迅速に実施していきます。平時より、サプライヤーと一緒になって、グローバルサプライチェーンのデータ整備に取り組み、安定供給に対する構えを強化していきます。」
変化対応力を備えた組織へ ― コンプライアンスを基盤とした進化
「私たちは、1次サプライヤーだけではなく、2次、3次、とサプライチェーン全体で適正取引を浸透させていかないといけません。」と中川は言います。
適正取引とは、2024年5月に経済産業省が改定した自動車産業適正取引ガイドラインで記載されており、「価格転嫁や技術・ノウハウの管理をはじめとした、大手企業を含む企業間で行われる取引が、公正で適正に実施されること」を示しています。中小企業庁のデータによると階層が深くなればなるほど、こうした取り組みの浸透度が低いとされています。
アイシンは、直接のサプライヤーに対し公正で適正な取引を行うことはもちろん、2次、3次とさらに深い階層にあるサプライヤーも意識し、サプライチェーン全体で多くの会社が円滑に経営を進められるための施策に取り組んでいます。
支払い条件に関しては、2017年にすでに中小企業への支払現金100%化を実施しており、2025年は大手企業のサプライヤーを重点対象として、手形サイトの短縮などに努める方針です。中川はこの取り組みに対する想いをこう語りました。
「アイシンのサプライチェーン全体の中では大手の下請けにもしっかり浸透するように対応しなければいけないと考えています。そのためにも、サプライヤーの皆さんには理解してもらえるような活動を地道にやるしかありません。その結果、同様の活動が業界全体に広がってほしいと思っています。」
さらにサプライヤーが保有する金型の廃却に関しても積極的な取り組み姿勢を見せています。自動車は耐用年数が長いことに加え、複数の車両に共通で使用される部品が多いことから、量産終了後も補修部品を必要とするユーザーへ部品供給を続ける必要があり、品番が廃止されるまで金型を廃却することはできません。この補修部品用の金型の保管に問題を抱えている、と早川は言います。
「我々は廃止された品番情報を適宜提供しています。ただ廃止された品番に対応する金型を他の部品に流用していないかなどをサプライヤー自身が判断する工数が無いとか、その金型について知見のある従業員がすでに会社にいないといった困りごとを聞きます。金型の所有権はサプライヤー側にあるものの、整理・廃却を進めるには個社では限界があります。金型の整理・廃却を進めることでサプライヤーの敷地スペースの有効活用や管理費低減につながるため、社内に専門チームをつくり、サプライヤーに出向いて金型整理・廃却のサポート活動に取り組んでいます。」
アイシンでは、この活動を2023年度から本格的に実施し、2024年度までの2年間で152社訪問し、約2万を超える金型を廃却しています。
サプライヤーに寄り添い、ともに高め合う存在であり続ける
時代や環境が目まぐるしく変動し先行きの不透明さが増す中、すべての課題を個社だけで対応するものではなくなってきています。サプライチェーン全体でいかに変化に対応し、競争力をつけていくかが重要です。アイシンはこれからもサプライヤー1社1社に寄り添い、より良いパートナーとして関係構築に尽力し、お互いにWin-Winであり続けることで、サプライチェーン全体でのさらなる付加価値向上と、持続可能な社会の実現をめざしていきます。