“植物”の力でカーボンニュートラル?! ヤシ殻を原料とした世界初の鋳造用バイオ成型炭を開発

2023.09.20

“植物”の力でカーボンニュートラル?! ヤシ殻を原料とした世界初の鋳造用バイオ成型炭を開発

地球温暖化対策が世界的に急務となる中、植物由来の生物資源(バイオマス)を活用した、バイオ燃料に熱い視線が注がれています。アイシングループで自動車用鋳鉄部品を製造するアイシン高丘(愛知県豊田市)は、鋳鉄溶解炉で使う石炭由来のコークスに代わる燃料として、ヤシ殻を原料とするバイオ成型炭を世界で初めて開発しました。2030年までに置換率100%を達成し、植物の持つ大きなポテンシャルを生かした次世代バイオエネルギーの実用化に挑みます。CO2を大量に排出する鋳鉄の領域での技術革新により、アイシングループ一丸で取り組む2050年のカーボンニュートラル(CN)実現に向け、大きく前進します。

鋳鉄の溶解工程で大量のCO2を排出

「鋳鉄」とは、鉄に大量の炭素(C)を含む合金の総称です。鉄は炭素を含ませることで硬く、摩耗に強くなります。砂を固めた鋳型に溶けた鋳鉄を流し込み、凝固、冷却して作られたものが鋳物です。鋳物は、アイシン高丘が製造するクルマのブレーキや駆動ユニットを構成する鋳鉄部品のほか、身近なものでは家庭用鍋やマンホールなどに幅広く使われています。

鋳造の詳しい工程はこちら https://www.at-takaoka.co.jp/casting/process.html

鋳物の製造では、石炭由来の燃料であるコークスを使い、約1,500度の高温で鉄源を溶かすため、大量のCO2を排出します。アイシン高丘の2022年度のCO2排出量は約21万トン。うち溶解工程からの排出が約60%を占め、CN実現には溶解工程における技術革新が必須となっていました。

溶解工程では、「キュポラ」と呼ばれる溶解設備に、鉄源とコークスを交互に投入します。コークスは、キュポラ内で燃焼して鉄源を溶かしながら、ベッドコークスとして下部にとどまり鉄源に炭素を与える役割を果たします。しかし、コークスは使用時だけでなく、原料炭の採掘や生成工程でもCO2を排出します。さらに、生産量は世界的に減少傾向にあり、かつ海外からの輸入に頼っているなどの事情もあり、将来的な安定調達も懸念材料となっています。

aisin_palmtree_01.JPG

捨てられていたヤシ殻が燃料に生まれ変わる

こうした背景から、アイシン高丘はコークスの代替燃料として、植物由来のバイオ燃料に着目しました。バイオ燃料は植物の生育過程で吸収するCO2が、鉄源を溶かす工程で出るCO2を相殺するため、排出量を実質ゼロにできます。コークスと違い、原料が枯渇する心配もありません。

さまざまな検証の結果、ヤシ殻の油分の多さに注目。同社インドネシア法人でヤシ殻炭を溶解工程の加炭材として使っていたこともあり、2021年に本格的な開発をスタートしました。

ヤシ殻は東南アジアに多く生息するアブラヤシの種の殻です。アブラヤシは成長が早く、年に3、4回、実を収穫することができます。実から絞ったヤシ油(パームオイル)は食用とされるほか、種から生成されるパーム核油は化粧品や石鹸にも使われています。そのパームオイルの生産量で世界一を誇るのがインドネシアです。パームオイルを搾った後のヤシ殻は近年、発電用のバイオ燃料としても脚光を浴びていますが、今も約半分が廃棄されています。食品廃棄物であるヤシ殻を有効活用すれば、廃棄物の発生量を減らすことができ、環境対策効果にもつながります。

aisin_palmtree_02.jpg

独自の製造技術でコークスと同等の性能を実現

新開発のバイオ成型炭は、ヤシ殻を炭化して成型したもの。独自の製造技術により、キュポラへ投入する時に崩れない強度や、高い熱量を確保し、設備や製品にも悪影響がないことを確認しました。

aisin_palmtree_03.PNG

開発を指揮したアイシン高丘生産技術本部長の仁田野順次は「もっとも重要なのは熱間反応性。コークスの燃焼性が良すぎるとベッドコークスの層が低くなり、溶湯に十分な炭素を与えられない。連続操業してもベッドコークスが一定の高さになるよう、品質を均一化していくのが今後の課題」と開発の苦労を明かします。

aisin_palmtree_04.JPG

アイシン高丘 生産技術本部長 仁田野順次

実証実験では、コークスの50%をバイオ成型炭に置き換えて溶解炉を6時間稼働し、量産品並みの品質の製品を生産することに成功しました。これで置換率50%での実証評価を完了し、2024年度に実証ラインを設置しての生産を開始。2025年に量産開始し、2030年までに同社で使用する全ての燃料をバイオ成型炭に置き換える計画です。

将来はバイオ成型炭を同業他社へ販売することも検討しています。アイシン高丘社長の内田信隆は「鋳鉄業界は中小企業が多い。既存設備をそのまま使ってのカーボンニュートラルと石炭コークスの調達リスクの両方を解決できるバイオ成型炭の利用を広め、業界全体の脱炭素化に貢献したい」と意気込んでいます。キュポラは、日本だけでなく、環境規制に厳しい欧州を含む世界各国・地域でも使われていることから、将来の海外展開も視野に入れています。

aisin_palmtree_05.JPG

アイシン高丘 取締役社長 内田 信隆

大きな可能性を秘める植物はCN実現の切り札

アイシングループは、CN実現に向け、生産と製品の両軸でさまざまな取り組みを行っています。生産面では、2035年の生産カーボンニュートラル、2040年のゼロエミッション工場達成を目標に、「動力源・熱源・無駄レス」「クリーンエネルギー」「廃棄物ゼロをめざした資源循環」を3本柱として、環境や社会課題の解決につながる技術開発を多角的に促進しています。

クリーンエネルギーの活用では、すでに太陽光発電やメタネーション、水素を活用した技術開発などで着実に成果を上げており、今回のバイオ成型炭もこの一環。課題の多かった鋳鉄の領域に、画期的な技術革新をもたらす「夢の燃料」となることに期待が膨らみます。

光合成を行うことでCO2を取り込み、酸素をつくる植物はCN実現の切り札となる大きな可能性を秘めています。アイシングループは、地球環境と私たちの生活を守るために、知恵を絞り、技術を磨き、「自然と調和し、誰もが安心して暮らせる社会」を追求していきます

■バイオ成型炭に関するニュースリリースはこちら
脱炭素に向けキュポラ用バイオ燃料を世界初開発 2025年自社工場で使用開始

■アイシンのカーボンニュートラルに関する取り組みはこちら
カーボンニュートラルへの取り組み

この記事をシェアする

  • X
  • Facebook
  • linkedin