次世代型太陽電池の先行開発
次世代型太陽電池の工法開発で、世界のエネルギーにイノベーションを。
Profile
- S.H生技先行開発部/2011年度入社前職は化学メーカーでのめっき材料の研究開発。アイシンに転職後も表面処理にまつわる業務に従事し、現在は次世代型太陽電池の先行開発でその知見を活用している。「機電系の会社なので化学系技術者は重宝されます」とのこと。
Index
- 01曇りの日、室内の蛍光灯でも発電できる画期的新技術
- 02ナノレベルの新工法でカーボンニュートラル実現に貢献
カーボンニュートラルの実現に向けて、自社工場向けの太陽電池開発に取り組むアイシン。電動化技術の開発とともに、こうしたエネルギー分野にもアイシンはその技術力を活かしています。
曇りの日、室内の蛍光灯でも発電できる画期的新技術
――S.Hさんは太陽電池の開発をされていると聞きましたが?
S.H:はい。現在私は「ペロブスカイト太陽電池」という新しい太陽電池の生産技術を担当しています。実は当社、あまり知られていませんが、20年ほど前から色素増感太陽電池の研究開発に取り組んでいるんですよ。
――ペロブスカイト太陽電池とはどのようなものですか?
S.H:太陽の光エネルギーを電気に変換する「ペロブスカイト」という材料を使った太陽電池で、2009年に世界で初めて国内の大学が開発に成功しました。現在は各企業が実用化に向けた研究開発に取り組んでいて、当社もそのうちの1社です。
――従来型の太陽電池とどこが違うのですか?
S.H:我々が普段街中や工場で見るものは、金属のシリコンを使った太陽電池が多いのですが、これは厚みがあって非常に重たいですし、形状的にも平らな板状の構造にするほかないため、設置場所が限られてしまうという欠点があるんですね。
――確かに、建物の屋上や郊外のメガソーラーといったイメージが強いですね。
S.H:その点、この新しい太陽電池は1マイクロメートルくらいの厚みしかありません。薄型・軽量で、曲げることも可能です。そのため建物の壁面など、シリコン型太陽電池には設置が難しい場所にも設置することができるようになります。
――軽くてフレキシブルに形を変えられるからどこにでも置けると。
S.H:はい。その上エネルギーの変換効率の面でも優れていて、これまでの太陽電池では曇りの日に発電できなかったのですが、ペロブスカイト太陽電池であれば曇りでも発電できますし、室内の蛍光灯の光エネルギーでも発電できるんですよ。
――蛍光灯でも発電?それは画期的ですね!
S.H:さらにいうと、「つくりのうれしさ」もあります。それというのも、シリコン型太陽電池は製造時に1500℃以上の高温で金属シリコンの純度を上げなくてはいけないので、製造時にかなりのエネルギーを使うんですね。それに対してペロブスカイトは温度を上げる必要がなく、かなり低いエネルギーコストでつくれるという特色があります。
――それはつまり、製造する時に出るCO2が少ないということですか。
S.H:その通りです。製品だけでなく製造プロセスも環境に優しいといえます。しかもシリコン型太陽電池に比べ低コストで製造できるため、次世代型の太陽電池として世界的な注目を集めています。
――まさにアイシンさんが目指すカーボンニュートラルの姿そのものですね。
S.H:そうなんです。開発が順調に進めば、アイシングループ全体の再生可能エネルギー率7%実現に向けた中核的な存在として、世界各地の拠点に設置されるはずです。
――2022年現在、開発はどこまで進んでいますか?
S.H:現在は2025年にはじまる実証試験に向け、ペロブスカイトの材料開発から量産に至るさまざまな工程で、実用化に向けた研究開発が進行中という感じですね。
ナノレベルの新工法でカーボンニュートラル実現に貢献
――では、S.Hさんの業務を具体的に教えてください。
S.H:この太陽電池は、薄板ガラスやフィルムなどの基板上にペロブスカイト材料の層を塗布してつくります。この層は数種類の材料から成り立っており、私はこれら複数の材料をいかに塗布するかという工法の開発を主に担当しています。
――塗布工法というとスプレーで液体の材料を吹き付けるような?
S.H:そういうやり方もありますし、液をのせた基板を回して塗布する工法や、印刷というやり方もあります。世界中にあるさまざまな工法の中から使えそうなものを調べ上げ、それらを横並びにしてQCDで成り立つのかを検討しながら、有望そうなものについて実際トライしてみるという形で開発を進めています。
――ペロブスカイト層の厚みはどれくらいなんですか?
S.H:数百ナノメートルですね。発電効率を落とさずにこれをいかに薄く均一に大面積へ成膜できるかが非常に難しくて・・・。塗布と一口にいっても乾燥や加熱の工程にも関わるので、私が検討すべき項目は非常に幅広いですね。
――現段階ではQCDのどこを重点的に開発していますか?
S.H:まずはとにかく品質の確保が最優先ですが、同時にコスト低減のアイテムを盛り込むための工法開発も行っています。そのため設計を担う先進開発部だけではなく、低コスト化の面では試作部、設備の量産技術開発では設備工機部との連携が欠かせません。
――本当に幅広いですね。
S.H:ええまあ、なかなか大変ではありますが、要素技術の開発から最終製品まで一貫して携われるので、非常にやりがいがありますね。前職の化学メーカーでは、自分が開発した材料がどのように使われているか知る機会がありませんでしたので。
――要素技術開発の難しい点はどこでしょうか?
S.H:解がどこにあるのか誰にもわからない開発ですから、従来型のひたすら実験を繰り返すスタイルでは時間がいくらあっても足りません。しかし当社では社内の統計的品質管理手法(SQC)やDXを推進している専門部隊に協力してもらうことができるので、効率的な開発が可能です。そのあたりのバックアップ体制は非常に充実していますね。
――自社工場で使う電力をまかなうほかに、どのような使われ方を想定していますか?
S.H:事業に関わる部分ですからあまり話せないのですけど、あくまで私個人の見解としては、自社工場のカーボンニュートラルだけでなく、普段の暮らしをも変えてしまう可能性があると思っています。室内で使える性能と価格を実現すれば、例えばハンディ扇風機に搭載していつでもどこでも発電して使えるようにするとか、そういうイノベーションを起こせる技術だと思うんです。
――なるほど、そう考えると非常に夢がありますね!
S.H:自分のつくったものがお客様に届いた時、どういう価値提供ができて、どうよろこんでいただけるか。そこを見ることができるのは最終製品を持つメーカーならではだと思います。私自身「こんな風に使われたらいいな」という想いが、仕事のモチベーションになっていますね。