Product History
02
走行安全(駐車・運転支援)編
安全で快適な駐車を支える挑戦
~ 画像処理技術を原点として
インテリジェントパーキングアシスト、
低速自動運転・自動駐車へ ~
Product History
02
走行安全(駐車・運転支援)編
安全で快適な駐車を支える挑戦
~ 画像処理技術を原点として
インテリジェントパーキングアシスト、
低速自動運転・自動駐車へ ~
先駆的な画像処理技術研究。
ここから先進的な駐車支援システムが進化していった。
車庫入れや縦列駐車を苦手とする人は少なくない。中には、1回で駐車できたことがないという人もいる。もっと簡単に駐車できる方法があったら、どれほど楽になるだろうか……そんなドライバーのニーズに応えるのが駐車支援システムだ。
このシステムの原点となったのが、1985年に川崎市に設立された研究所で始まった画像処理の研究開発である。ここでは、カメラ画像から走行レーンとその曲がり具合、前方車両との車間距離を認識する、当時としては先駆的な高速道路自動走行用の画像処理技術を開発し、米国での自動走行実験などにも参加していた。
1997年からは、トヨタ自動車とともに画像処理技術を用いた駐車支援システムの開発に取り組み、2000年に車両後方の映像とガイドラインで駐車をサポートする「バックガイドモニター」、2001年にハンドル操作量や切りかえしのタイミングを声で案内する「音声ガイド付きバックガイドモニター」を送り出した。
バックガイドモニター
これらは当時、世界初となるシステムであった。いずれも画像処理技術が核となるもので、アイシンは培った技術でその実用化に貢献した。
認知と判断に加え、操作も支援する
駐車支援システムへの挑戦。実現すれば世界初だ。
バックガイドモニターは、ハンドル操作に呼応した予想進路を示すことで、どの程度ハンドルを操作したらいいか事前にわかるという点では画期的だったが、完全とは言えなかった。ドライバーは自分でハンドル操作をしなくてはならず、車庫入れや縦列駐車の煩わしさから完全に解放されたわけではなかった。ハンドル操作の不要な「夢の駐車システム」をつくり出したい。駐車操作の煩わしさをなくし、新しいうれしさを創造したい…。
このような背景の中、トヨタ自動車から「ハンドル操作なしで車庫入れができるシステムを開発したい」と要請があったのは2001年初めのことである。トヨタは駐車を支援するシステムの開発に力を入れ、他社に先駆けて駐車支援技術の高度化に取り組んできた。そのトヨタから要請されたのがトヨタがステアリング制御を、アイシンがカメラによる画像認識とハードウェアの開発を担当する、新たな駐車システムの共同開発だった。
車を運転する時、人間には「認知」「判断」「操作」の3つの行動が求められるが、駐車でももちろん同様である。空いているスペースや障害物の位置関係を「認知」し、どこでどれだけハンドルを操作すればよいかを「判断」し、そして実際にハンドルやブレーキを「操作」して駐車する。これまでのシステムで支援していたのは、3つの行動のうちの「認知」と「判断」。ところが新しいシステムではハンドルの「操作」も車側で行うというのである。それが決して容易ではないことを開発メンバーは瞬時に理解した。
駐車すべき位置を正確に認知し、刻々と変化する車の位置を検知しながらハンドルをスムーズに操作し、駐車位置に近づけていく。このこと自体、きわめて難度が高い。我々にとっても初めての挑戦だ。
新しいシステムでは「操作」だけでなく、「認知」「判断」の部分でも今まで以上の精度が求められるだろう。誤動作を防ぐのはもちろん、ドライバーが誤った操作をした場合にも安全が確保されなければならない。ドライバーに負担がかかってはいけないし、操作が簡単で使いやすくなければならない。「実験室ではできるかもしれないが、商品化は難しいのではないか」といった声が上がる中での開発スタートだった。
36cmの誤差をなくし、駐車精度を上げる。
着目したのは車高センサーだった。
プロジェクトで課題となったのは、リアカメラ画像を用いた駐車位置の設定誤差である。この誤差は最大で36㎝にも達し、それは開発メンバーにとって衝撃的だった。36cmも駐車位置がずれるようではとても実用的とは言えない。その原因の一つとして判明したのが、車の後ろ側を映すために使用していたCCDカメラの視点変化だった。
クルマに積載されている物の量や位置、路面の状態、タイヤの空気圧、摩耗度によって、カメラの視点が微妙に変化して、これが誤差を生む。わずかなズレかもしれないが、センチ単位の精度が求められる駐車システムの場合、それが致命傷になる。
どうすれば誤差を減らせるのか。粘り強く議論を交わす中で、あるアイデアが浮上した。
ヘッドライトに使われる車高センサーが使えないか。このセンサーは、車高の変化に応じてヘッドライドの照射角度を制御する。これを応用して車高センサーからの信号でカメラの視点の変化を補正し、目標位置の設定誤差を修正したらどうか。
課題だった駐車位置精度はこれにより大きく改善した。
ハンドル操作を自動化した世界初のIPAが
クルマ選びの決め手になった。
安全性は果たして十分に保証されているのか……この問いかけはハンドル操作なしで駐車できるシステムの開発において一貫して自問されていた。ハンドル操作も自動化しようというわけだから、絶対に誤動作はあってはならない。そのための工夫の一つがコントロールユニットだった。
従来はコントロールユニットに1つしか搭載されていないマイコンをメインとサブの2つのマイコンにするというアイデア。
2つのマイコンはそれぞれ自動操舵の計算を行い、その結果が一致した場合のみハンドルを切れと指令する仕組みだ。
これにより安全性を向上させることが可能となった。駐車精度の向上とマイコンの二重チェックによる安全性の向上を達成したことにより、ハンドル操作を自動化した世界初の駐車支援システム、インテリジェントパーキングアシスト(IPA)は製品化の目処をつけることに成功した。かつて社内でささやかれていた「商品化は難しいのではないか」という懸念の声を完全に打ち消した快挙だった。
2003年、初代IPAを搭載した2代目プリウスが発売された。ハイブリッド車の新型ということで反響は大きく、売上げも好調だったが、IPAの存在も大きかったという。ディーラーから伝わった「IPAがクルマ選びの際の決め手になった」とのお客様の声は開発メンバーに確かな手ごたえを感じさせた。
初代IPAのコントロールユニット
操作時間14秒への挑戦。
駐車場のサンプル画像をとことん集めろ。
確かにIPAは便利だが、使いにくい……評価の高かった初代IPAだったが、実はこうした声もお客様から寄せられていた。開発メンバー自身、確かにそう言われても仕方ないとは感じていたのだ。
ドライバー自身が目標位置をモニターで設定するため、シフトレバーをリバースに入れてから実際に車が動き出すまで 最大で14秒かかる。確かにこれは長い。長すぎる。
どうすれば短縮できるのか。頼りにしたのが、アイシンが得意とする画像処理技術だ。カメラでとらえた画像の中で駐車位置を自動で迅速に見つけ出すことできれば、操作時間を大幅に短縮できるはずだ。それには後方カメラの映像から路面上の駐車区画線を検出し、駐車目標位置を自動で設定する技術を開発すればいいのではないか。
が、話はそう簡単ではない。駐車目標位置の画像認識には、特段の難しさが存在した。
駐車場には実に多くのバリエーションがある。区画線の色や形状もさまざまで、その上、汚れやかすれ、路上の状態によって認識しにくかったり、隣の車や建物の影の影響を受けたりもする。区画線の見え方も車の動きによって常に変化する。これらに対応した画像認識を開発する必要があった。
さまざまな駐車区域に対応するためにはとにかくサンプルとなる画像を集めるしかない。こうしてメンバーはもちろん関係部署を巻き込んで、全国津々浦々での駐車場画像の収集が始まった。
リバースに入れてからでは遅すぎる。
入れる前に予測させようとの発想の転換。
サンプル画像の対象となったのはショッピングセンターや病院、空港、公共施設など全国 数百か所に及んだ。その画像を会社に持ち帰って実車で実験を行い、その結果を分析して認識プログラムを改良。また実車に搭載して試験という地道な作業を続けることで、区画線の認識率は着実に上がっていった。そして半年後には目標の認識率を達成するのだが、開発メンバーはこれに満足しなかった。もっと画像処理のスピードが上げられないかと考えたのだ。
シフトレバーをリバースに入れてから、画面全体から区画線を探していたのでは遅すぎる。
シフトレバーを操作するまでの車両の動きから、画像処理をする画面を限定することはできないか。
という発想への転換だ。後退を開始する位置につくまでの車両の動きを計算することで、駐車区画が表示されるであろう位置を予測。カメラの映像の中でその部分だけを限定して処理するのだ。これによって処理する情報の量はおよそ10分の1になり、リバースに入れてから後退開始までの所要時間は14秒から5秒にまで短縮された。ドライバーからすると、シフトレバーをリバースに入れ、画面が後方画像に移り変わった瞬間にはもう駐車位置が表示されていることになる。
大幅な時間短縮を果たし、利便性、操作性を向上させた第2世代のIPAは2005年、マイナーチェンジしたプリウスをはじめ複数の車両にオプション設定され、高い評価を集めた。だが、それでもまだ開発メンバーは満足していなかった。
アクセルやブレーキ、シフト操作はまだ自動化されていない。お客様が本当に求めているのは、ワンボタンで安全に駐車できるようなシステムのはず。IPAはまだまだ開発途上だ。
※所属は取材当時のものです
世界初の画期的な製品の開発プロジェクトということで、非常に多くの課題がありましたが、やりぬきたいという思いで取り組みました。当時、入社間もない若手でしたが、得意先との共同開発の重要な部分を任され、その経験がその後も大きく役立ちました。当時はコンピュータの能力も低く、AIもまだ登場していない時代。作りたい機能やアイディアがなかなか実用化できないもどかしさがありました。
近年、IT、AIの技術の進歩は著しく従来なら不可能だった機能も実現できるようになっています。今の技術者に求められるのは、従来の知見を受け継ぎつつも、さらにダイナミックになりつつある社会の変化や新しい技術の進歩に対して常にアンテナを張っておくこと。そしてそれをスピーディに自らの業務に反映させていくことだと思います。
半自動から完全自動、さらにその先へ。
もっともっと進化させていかなければいけない。
利便性、操作性を大きく向上させたIPA。しかし、時代が進むにつれて、ユーザーはより安全で快適な駐車を求めるようになっていた。これまで一貫して「安心・快適・利便な移動」を実現する製品の提供に努めてきたアイシンにとって、ユーザーニーズに応える革新的なシステムに挑戦し続けることは使命であると言える。
そこで着手されたのが、駐車に関わるすべての操作、すなわちハンドル、ブレーキ、アクセル、シフトを全て自動で制御する駐車支援システムだったのだ。それに必要な機能を強化するため、前後4つのカメラに加え、計12個の超音波センサーを追加した。これにより周囲の環境を360度認識させて判断することが可能になったのだ。
その成果が2020年に登場した「アドバンストパーク」。トヨタ、デンソー、デンソーテンとの共同開発によるこのシステムは、ハンドル、アクセル、ブレーキ操作も自動で行い、スイッチ操作だけで駐車を完了させる完全自動駐車を実現させた。アイシンは区画線認識と車両制御ソフトを担当し、システムの精度と安全性を向上させる重要な役割を果たした。
それでもメンバーはさらなる進化を追い求めている。
今のシステムは、自宅や斜めの駐車場での使用ができない。いつでもどこでも安全に駐車できるシステムへと進化させるために、やるべきことはまだたくさんある。
この課題を乗り越えるために着目したのが、AIだ。AIを使って自車周辺の空きスペースを検知することで、対応できる駐車場の拡大をめざした。
AIの性能を担保するためには、さまざまなデータを学習する必要がある。開発メンバーは、夜間や雨、雪、国内外の多様な環境のデータ収集に走り回った。また、処理能力が限られた車載ハードウェアでAIを実行するために、AIの小型化実装技術を磨いた。数年に渡る開発を経て、自宅や斜めの駐車場での自動駐車が実現した。
では、次のさらなる進化とは?
乗るところから降りるところまでをフルサポート。
思い描くのはそうした未来。
自動駐車のさらなる進化を図りつつ、アイシンが次にめざしているのは、駐車の動作だけでなく、駐車場の中での走行も自動化する低速自動運転のシステムである。
たとえばドライバーがショッピングセンターに来たとする。駐車場の入り口でボタンを押せば、駐車場内を自動的に走行し、目的の場所に到着すると区画線内に自動的に駐車してくれる。その間、ドライバーは車に乗り続けてもいいし、ボタンを押したら降りて買い物に行ってもいい。
このシステムを実現するには認識すべき情報が飛躍的に多くなるし、求められる画像認識の位置精度も桁違いとなる。環境データの収集もさらに強化されなければならない。
駐車場内は人や障害物と車との距離もはるかに近いし見通しも悪く、自動化は簡単ではない。だが、それによってもたらされる快適性や利便性を考えれば、実に挑戦しがいのあるテーマである。
そして、この技術が安全性を高めるものだということも開発メンバーは強調する。
低速自動運転の技術は、駐車時の利便性を向上させるだけでなく、安全性も高める。駐車場での事故は多く、『車の事故の3割は駐車場で起きている』と言われており、子どもが巻き込まれるような痛ましい事故も発生している。低速自動運転の画像認識の技術は、ヒューマンエラーを排除し、こうした事故を防ぐことができるのだ。
私たちの夢は、この技術がどんな車にも搭載され、事故のない安心・安全なモビリティ社会が実現すること。そして、それが私たちの使命だと考えている。
私が取り組んでいるのは、自車周辺の空きスペースを検知するAIモデルの開発です。夜間や雨天時でも駐車をサポートできる汎用性の高いモデルをめざしています。大学生の頃、駐車や狭い道の運転が苦手で、運転することを避けていました。同じような思いをしている方々を救うシステムを作りたいという初心を大切にしながら、開発を進めています。
私たちの自動駐車システムは、これからも進化を続けます。アイシンが磨いてきた自動駐車技術と「安心安全を第一に」という理念を引き継ぎつつ、利便性を追求していきます。また、世の中の動きや技術のトレンドにアンテナを張り、最新技術を積極的に取り入れながら、ドライバーの皆様に喜びを提供し続けます。
※所属は取材当時のものです