Product History
01
車体(ドア)編
全ての人に安心、快適な乗り降りを!
~ ドア機能部品から
ドア内蔵型パワースライドドア、
ストレスフリーエントリーへ ~
Product History
01
車体(ドア)編
全ての人に安心、快適な乗り降りを!
~ ドア機能部品から
ドア内蔵型パワースライドドア、
ストレスフリーエントリーへ ~
より快適で、より安全な自動車のために
という不変の思い。
スイッチ一つで開け閉めができ、駐車スペースが狭い場所でも安心して乗り降りができるパワースライドドア(PSD)。その利便性のよさから家族層を中心に人気を集めているが、そこで世界NO.1のシェアを持つのがアイシンだ。
その原点となったのは1950年代半ばから量産化されたドア機能部品である。アイシンの前身である新川工業では「ドアロック」「ウインドレギュレーター」、もう一つの前身会社である愛知工業では「ドアハンドル」が開発され、1955年に発売されたトヨタ自動車のRSクラウンに搭載された。 これを皮切りに、アイシンは画期的なドア関連部品を次々と生み出していくのだが、それらのすべてに共通するのは、ドアはユーザーが実際に触れ、操作し、乗降する、人間に最も近いパーツの一つであること、そして乗降時の操作性、走行時の安全を保つ閉鎖性、万一のトラブル時に人の命を守る高い固持性を備えた部品でなければならないとの信念である。ドア機能部品を通し、より快適で、より安全にという自動車が本来持つべき機能をいかに進化させていくか。やがて登場してくるドア内蔵型PSDや人の行動を先読みするドア「ストレスフリーエントリー」に一貫して受け継がれていくのは、こうした思いであった。
ピニオン式ドアロック(1955)
目標は決まった。
「10年後も世界のトップに君臨するPSDの開発を!」
スライドドアは狭い場所でも乗り降りがしやすく便利だが、ドアが重く、手動では女性や高齢者には扱いにくい……1990年代後半のミニバンブームを背景として採用が急増していたスライドドアに対し、こうした声が寄せられていた。
アイシンでは1997年にトヨタ・ラウム向けに手動式スライドドアを提供していたが、手動ではなく自動で開閉できるスライドドアが求められていた。「安全・快適・利便な移動」の実現をめざすアイシンにとって、自動車メーカーでの採用が進んでいる自動開閉式のスライドドアは是非とも挑戦すべきテーマだった。そこで開発されたのが電動式のパワースライドドア(PSD)で、初のアイシン製PSDは1999年にトヨタ・タウンエース/ライトエース・ノアに採用された。だが、当時のPSDは駆動ユニットや電力を供給する給電ユニットを車体側に配置し、ケーブルで引っ張るプッシュプルケーブル方式が主流だった。
これではドアを開閉するための駆動ユニットが室内に大きく張り出して室内空間が狭くなるし、作動音も気になる。しかも搭載できる車種も限られてしまう。これを解決するには現状のドアに代わる画期的なPSDに挑戦するしかない。もし、それが実現すればアイシンは部品メーカーからシステムメーカーへ脱皮することができるはずだ。
PSDの次期開発モデルに関する議論の中で、メンバーから上がったのはこうした声だった。ここから駆動ユニットなどの主要部品をドアに内蔵するという世界初のアイデアへの挑戦が始まった。目標は「10年後も世界のトップに君臨するPSDを!」だった。
体にロープを巻きつけて昇降する消防士の動き……
アイデアは突然舞い降りた。
それはあまりに無茶な話に思えた。すべての機構をドアに内蔵するため、およそ半分にまで小型化するというのだ。世界初の試みだから参考となる資料もない。
2001年に発売される新型トヨタ・ノア/ヴォクシーなど4車種をターゲットとしたドア内蔵型PSDの開発である。室内空間が十分に確保でき、車両の搭載性も向上、小型車への搭載も可能になるといった内蔵型にするメリットは十分に納得できる。だが、すべての機構をドアに内蔵するためには劇的に小型化しなければならないのだ。おまけに期限も決められている。そうした苦しい状況下での開発スタートだった。
小型化に向け、各部品の設計を精力的に進める中、ネックとなったのはケーブルでドアを開閉するための仕組みである。駆動ユニットや電力を供給する給電ユニットをドア側に配置した上で、どうドアを開閉させるのか。発想を変え、ロープを固定してドアを動かせないかと知恵を絞っていた中、アイデアは突然舞い降りてきた。消防士が自分の体にロープを巻きつけ建物を昇り降りする動き、あれが生かせないか。
消防士をモーターに置き換え、固定したケーブルを巻き取ったり、送り出したりすることでドアを動かす、という発想だ。公園やアスレチックコースの池にある、ロープで移動する小舟を考えればいい。船に乗った人がロープを手繰り寄せることで船は対岸まで移動できる。小舟をドアに、人間をモーターに置き換えればいいのだ。これなら内蔵型も可能になるはずだ。
内蔵型を可能にするドア開閉機構はこうして決定した。
駆動ユニットは小型・薄型化・軽量化と
高出力化という矛盾する課題への挑戦だった。
システム製品として仕上げていくための主要装置の開発も本格化した。プロジェクト全体はアイシンが担当したが、主要な装置の多くは、専門ノウハウを持つ異業種の外部メーカーとの共同開発によって進められた。モーターはアスモ※、電磁クラッチは小倉クラッチ、ハーネス(電線)類は矢崎総業などである。
※2018年に株式会社デンソーと事業統合
中でも開発の焦点となったのがケーブルを巻き取り、開閉の速度を制御する機能を果たす、作動の心臓部となる駆動ユニットである。開発メンバーによれば、それは矛盾する課題への挑戦だった。
駆動ユニットはドア内部に納めるため小型・薄型化・軽量化しなければいけない。だが、その一方でドア重量の増加に対応するためには高出力化が必要だ。高出力化すれば普通ならどうしても大きく、重くなってしまう。高出力化しつつ、より小型に、より軽量にする。矛盾する課題だが、それに挑むしかない。
この解決に向け、モーターは内部構造を徹底して見直し、電磁クラッチでは回路設計や素材の変更といった極限レベルでの試行錯誤を重ねた。こうして生み出されたのが、世界最小・高出力を誇る駆動ユニットだった。
開発期限が迫る中、最後の課題となったのが、駆動ユニットに電気を供給する給電ユニットである。同ユニットは矢崎総業との共同開発で、アイシンは巻き取り構造の領域を担当した。
ドアが開いている時でもドア側の駆動源に給電するためのハーネスの束をいかにコンパクトにドア側に収納させるかが重要なポイントだった。時間に追われながら最終的にたどり着いたのは束の断面を楕円形にし、コンパクトに巻き取る仕組みだった。完成した給電ユニットは薄い丸型で、ハーネスが巻き取られると渦巻き状になった。その姿がカタツムリのような形を連想させたことから「でんでん虫式」と呼ばれた。
完成は2001年5月。翌日がトヨタ・ノア/ヴォクシー搭載に向けたタイムリミットというぎりぎりのタイミングだった。
便利さが受けて大ブレイク!
自動車の快適性と安全性をより進化させたからこそ。
この世界初のシステム製品は新型トヨタ・ノア/ヴォクシーに搭載され、市場に投入されるやたちまち大ブレイクを果たした。
大きな評判を呼んだということは圧倒的に多くのユーザーに受け入れられ、支持されたということ。自動車の持つべき快適性と安全性をさらに進化させたからだ。
世界初を成し遂げた開発者たちの心には達成感と自信、そしてホッとしたという安心感も同居していた。
アイシンにとってもドア内蔵型PSDは車体系分野におけるシステム商品の先駆けとなり、2007年度愛知発明大賞とトヨタ技術開発賞を受賞している。その後、搭載車両は着実に増加していき、トヨタ自動車では多くの車種に採用されていったほか、日産自動車やスズキ、三菱自動車でも採用が進んだ。
世界シェア約70%。世界NO.1製品へと成長。
しかし、残された課題はまだ多い。
ミニバンへの搭載を前提として始まったドア内蔵型PSDの開発だったが、その後のさらなる小型化や軽量化、低コスト化によって、軽自動車にも搭載され、採用車種は増えていった。また、ドアだけでなくドア以外の、たとえばステップ部分とかクォータパネル(リアのタイヤハウス上部) に配置したいという車両側のニーズに合わせ、最適な駆動ユニットを開発したことで、車種やメーカーの枠を超えて採用が拡大した。世界シェアは約70%、文字通り世界NO.1製品へと成長した。
もちろん、それに安住しているわけではない。製品への満足度は高いものの、一方で市場から厳しい声が届いていた。その代表的なものが、「挟まれる前にドアを止められる機能はないのか」というもの。PSDは挟み込み検知機能はあるが、実際に接触しないと検知しないのだ。この声は開発者たちを悩ませた。
電動化によりスイッチ操作が可能になったため、ドア近くに人がいることを知らずに作動させてしまい、挟まれそうになったとの報告があった。電動の場合、開閉動作が遅いため、ちょっとイライラしてしまう。さっと開いてぱっと乗り降りでき、荷物などで手がふさがっている時は操作せずに自動で開閉できるようなシステムができないか。
電動化したゆえに登場してきたPSDに対する新たな要請。
それはアイシンが進める次世代のドアの開発へと受け継がれることになった。
入社後、軽自商用車に搭載するドア内蔵型PSDの開発に携わりましたが、商用車の場合、厳しい条件下で乗用車以上に小型化と薄型化をしなければならず、本当にやれるのだろうかと思い悩むこともありました。
しかし、たくさんの先輩方が目の前の高いハードルに挑んで乗り越え、世界初のドア内蔵型PSDを開発してきたことを考えれば、我々にだってできないはずはないと考えるようになりました。
大切なのは絶対にやり抜くんだという強い覚悟を持つこと。それによって軽自商用車向けドア内蔵型PSDの開発にも成功したのだと思います。若い人にはやれるかやれないかを考えるのではなく、なんとしてでもやり抜くんだという覚悟を期待したいです。
※所属は取材当時のものです
より快適な乗降のためには、「ドア」から「システム」へと進化させていくしかない。
PSDに寄せられたさまざまな要望や不満にどう応えていくか。100年に一度と言われる自動車業界の大変革期の中でアイシンは何をすべきか。一貫して「安心・快適・利便な移動」の実現をめざしてきたアイシンに何かできるのか……そこから得られた結論がこれまで培った技術や総合メーカーである強みを活かし、PSDに代表される車への乗り降りをサポートする製品をさらに進化させていくことだった。
しかし、それを形にしていくには、ドア単体の視点でも不可能ではないだろうが、開発メンバーの考えは一致していた。
もはやドア単体の機能開発やレベルアップではユーザーに新しい価値を提供することはできない。我々がめざすべきは、すべての人に乗降時の不安や負担を解消していくシステムへの進化だ。
ここでいうすべての人には高齢者や子ども、ハンディキャップを抱える人が含まれ、さらには物流や福祉車両を利用する人も対象となる。文字通りあらゆる人が快適に安全に乗り降りできるようにするためのシステム。
「“移動”に感動を、未来に笑顔を。」という経営理念にふさわしい、人の行動を先読みするドア「ストレスフリーエントリー」の開発は始まった。
ユーザーの動きを予測して作動するシステムへ。
安心と想像を超えた快適に向けた歩みは続く。
「すべての人の乗降時の不安や負担を解消する」をコンセプトに始まった、新たなストレスフリーエントリーの開発。広くラインアップしているPSDの技術や知見に加え、自動駐車・低速自動運転で培ったセンシング技術や画像認識技術などを統合し、実現しようとしているのが「先読み自動ドア開閉・ぶつからないドア」だ。
開発チームではすでにPoC(概念実証)車両を完成させており、そこで開発メンバーが想定しているのが、たとえばユーザーがベビーカーを押してクルマに近づくといったシーンだ。
ホテルマンが車両のドアを開けてくれるような、ユーザーへのおもてなしのイメージ。
もしユーザーがベビーカーを押していたら、自動で後部座席のドアが開く。
ベビーカーを押してトランクに向かうと、今度はバックドアが自動で開く。
ベビーカーをトランクに収納し運転席に向かうと、運転席のドアが自動で開く…
という感じだ。もし持っているのが小さな荷物だけだったら運転席のドアだけ開けるなど別の対応が必要だろう。
さらにアイシンの持つ位置情報技術なども組み合わせれば、車が自宅にある時とスーパーにある時が区別でき、より適切なドアの作動が可能になる。人の行動を先読みするという点では、このシステムが実現すれば、ドアへの接触や挟まれ自体を未然に回避することもできるだろう。
もちろんこれは一例に過ぎない。これからも乗り降りに関する「困りごと」を吸い上げ、あらゆるシーンにおいて安全性、快適性をレベルアップさせていく。より多くの人々に安心と想像を超えた快適がお届けできるよう、アイシンの挑戦は続く。
※所属は取材当時のものです
アイシンは世界初の内蔵型PSDで新しい当たり前を作り出しました。そして、いまはストレスフリーエントリーによって人の行動を先読みし、ストレスのない乗降を可能にするという新しい当たり前を作り出そうとしています。
そして、そこで求められてくるのが、先輩方から受け継いだ、どんなに高いハードルであろうと絶対にやりぬくんだという覚悟を持つこと。
新しい当たり前を作ることが決して容易でないことは十分に承知していますが、どんなに高くても諦めるつもりはありません。やり抜くんだという決意のもと、アイシンが持つ総合メーカーの強みを生かして新しい価値を社会に提供し、“移動”の感動がお届けできるよう挑戦を続けています。